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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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困った事に三者面談 5

 コトリと言うティーカップを、置く音にあたしの集中力が切れる。此れまでに、計算した数字を資料の束とは別の紙に書き込む。この紙は羊皮紙よりは、安価に手に入るようになっているけれど。其れだって、とても高い代物だ。

 庶民には手の出ない代物で、当然のことだけれど。普通の平民は、文字の読み書きすら出来ないのだから、その辺りは仕方が無いことだと思う。何せ、学校自体が無いのだから。

 因みに、学校と言える物は王都にだけは有る。あれは、貴族階級の子弟のみが通う場所で、先ず平民が通うことは無い。ヒロインになる子に関しては、確か王都の男爵家に養子に入って、入学が許されたらしい。

 この世界に、結構長く暮らしていると、その設定の不自然さに気が付く。王都の学園に通うだけで、普通では考えられないほど、お金が掛かる。平民での娘が、学校に通えるなんて事は、相当訳ありでもないと、あり得ないことだ。

 そのヒロインちゃんの訳ありには、少しだけ興味がある。何しろ、あの乙女ゲームさくらいろのきみに・・・の、裏側に何があるんだろうってね。実際、あのゲームの説明に無かったことが、この世界には色々あった。たぶん此れからも、思いも掛けないくらいダークな裏設定があるんだろう。

 だいたい、あたし達呪われた双子の嫌な設定なんか、乙女ゲームに相応しくない。

 悪役令嬢マリアが、あんなに暴走したのだって、若しかすると毒親の所為なんじゃ無いかって思うのよ。あれは父ちゃんが、自分の子供と奥さんを、お爺ちゃんの傲慢な振る舞いによって、失ったことに対する、復讐だったと、あたしは思っているのだけれど。

 その辺りのことから、あたしがチャイ為たからね。父ちゃんは、今では復讐なんていけない事を考えたりしていない。一応父ちゃんが、本当は何を考えているかなんて、判らないけれど。

 あたしが、昔のことを思い出してからは、父ちゃんの気持ちが変わるように、可能な限り、可愛い娘を演じまくったから。奥様に対する、意趣返しなんか考えないようになっていると思う。本当に、気持ちが変わったかなんて、判らないけれど。少なくとも、マリアのことを殺して、あたしがドッペルゲンガーのように、彼女に成り切らせようとはしなかった。

 それどころか、あたしが彼女を助けるのに協力してくれたからね。その辺りは信じている。

 そんな下らないことを考えながら、奥様とその隣に座っているデニム子爵の良く似た顔をまじまじと眺める。あの侍女さんに命じられた、メイドさんがワゴンの上から、それぞれに焼き菓子がのった皿を、そっと置いてゆく。ティーカップには、良い香りのする、お茶が煎れられている。

「少し休憩いたしましょうか。リコ大夫捗っているようですけれど、何か気が付いたことはありませんか」

 本格的に、地を出しても良いって事らしい。何となく怪しいのだけれど。黙っていることも、あたしの信用に関わりそうだ。

「私の計算違いかも知れませんが、幾つか辻褄が合わない場所があります。もしかして、記入漏れや書き間違いなのかも知れませんが、其れが五ヶ所ほど有りました。ちゃんと調べた方が宜しいかと思われます」

 あたしは、取りあえず可笑しな場所を指さしながら、奥様に見せる。この辺りは、村長の処で、手伝っていたときと同じだ。結構良い金になるバイトだったんだよね。

 何しろ、村の衆の中で、あたしみたいに読み書き計算が出来る人間は、殆ど居なかったからね。賢者様にも言われたっけ、知識は力だって。そう言う意味では、あたしもチート持ちって言えるのかも知れないね。






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