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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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姉との対話 9

 姉上はそう言うと、口元をほころばせる。たぶん笑っているのだろうけれど、この表情は決して心底からの笑い顔では無い。其れが、何を意味する物なのか、デニム子爵には判らない。それならば、良いことだと思うのだけれど。其れだけでは満足できないのかも知れない。

 デニム子爵は最近は、姉上が心底笑っているところを見たことが無い。半ば諦めているようで、幸せを感じていないのだろう。実際、彼女の立場はとても責任が大きくて、その割に見返りが少ない。真面な領主にとって、決して生きやすい状況とも言えなかった。

 何しろあのデイモン・デニムの奴は、王都で遣りたい方だいした挙げ句。貴族の妻という関係上、側妃のことは仕方が無いと、思うことの出来る者では無く。いわゆる妾を何人も持っている。

 実際姉上は、あの男に側妃をめとることを許しては居ない。何より、このデニム家を継ぐ者は,直径の血筋で無ければ許されない。其れが、マルーン王国の元王族としての、最期に残された矜持でもある。もしも、妾や側妃との間に産まれた、子供に継がせるようなことになれば、完全にデニム家の血筋が途絶えてしまうことになる。

 若しもその様なことになれば、デニム子爵は黙っていられないかも知れない。本来ならば、王位継承権の高い彼が、デニム家を継ぐはずだった。此れがアリス・ド・デニムだからこそ、この邦の実権を握ることに反対しなかった。

  其れが今の彼女は、何処か可笑しい。何処がどう変わったのか、デニム子爵には其れを言語化することは出来なかったが。何処かが違ってしまっているように感じて、酷く不安になる。

 其れは命を狙われて、最も信頼している侍女を傷つけられたのだから、調子が狂っていたとしても、仕方の無いことなのかも知れない。彼がそう思おうとすればするほど、とても気になってしまう。

 何よりアリス・ド・デニム伯爵夫人には、この邦に住む民の日々の生活がかかって居る。デイモン・デニムのように、好き勝手に遊びほうけていられない。

 絶えず野蛮人の国からのちょっかいや、王族達からの此方を弱体化するための、政策とも戦わなければいけない。そう言った、日々の重圧は次第に姉上の心を疲れさせているのかも知れない。

 そこに、若い頃最も信頼していた男が戻ってきた。其れも、失ったと思っていた子供を連れて。

 姉がこれほど、彼奴のことを頼りにしていても仕方が無いのかも知れない。真逆とは思うけれど、本当に元サヤになったり敷いていないだろうな。そんなことに成ったら、其れこそ頭の痛いことになってしまう。

 そう言った関係を、持っている貴族夫人は結構居るには違いないけれど。其れが身内に起こるのは、決して気分の良い物ではない。何よりそれにまつわるごたごたは勘弁して貰いたい。

 デニム子爵の思考は、あらぬ方向に向かっていく。勿論この事を姉上に問いただすわけにも行かない。もしも、この邪推が現実の物に成ってしまったら。これほど外聞の悪い事はないのだから。

 





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