姉との対話 5
「あの娘が、あの呪われた娘だという証拠はあるのですか。真逆、ハーケンが言ったから何て言うのでは、有りませんよね。確かに良く似ては居ますよ。よしんば、其れが本当なら、あの国を滅ぼすと言われている、双子をそのままに為ておく御積もりですか」
アリス・ド・デニム伯爵夫人は、デニム子爵の物言いが気に入らなかった。まなじりを上げて睨み付ける。彼女としては、この弟の物言いが気に入らない。あの見た目とその行動を観察した心証は、間違いなく自分の娘だと思わずにはいられなかった。確かに、この心証について、客観的に説明できる物ではなけれど。最近は、自分の子供だと確信を深めていた。
「私はナーラダのリコが、あの時捨てられた。私の赤ちゃんだと思っています。それに、双子が家に不幸をもたらす物だという、その迷信に反対したいと考えています。折角戻ってきた子供なのよ。処分など出来るわけがありません。もしもその様なこと考えるのでしたら、貴方との縁を切りますわよ」
デニム子爵は、姉が本気だと言うことを実感した。其処には、十三年前にお腹を痛めて産んだ子供を、死んでいたと言われて捨てられたときの、狂気を胎んだ雰囲気を思い出した。
姉に言うことを聞かせることに出来る者は、この邦には居ない。デニム家の頭首は、アリス・ド・デニム伯爵夫人その人なのだから。当然のことながら、デイモン・デニムのような、屑では言うことを聞かせることなど出来ない。
デニム子爵は思わず溜息を付いた。何より、このマルーン邦を統治しているのは、目の前に居る伯爵夫人なのだから。本来なら、マルーン王国の王族で在り。民の敬愛を一身に受ける、直径の女王。
彼女が一度立つと宣言するのなら。マルーン国民はこぞって、彼女のために剣を取るだろう。何より彼女は、邦の人々のために、女の幸せを犠牲に為てまでも、国を守ったのだから。
デニム子爵も、本来なら直径の王族として、王と成る資格を持っていた。蛮族の侵略さえなければ、姉は己が愛する人の元に嫁いで、デニム子爵が王位を継いだはずだった。其れが適わなかったのは、今の領主国の意向に従わなければならなかったからだ。
つまり、援軍を送る見返りとして、マルーン王国の恭順が条件となっていたからである。いわば究極の選択を迫られた。
どちらに転んでも、地図上からマルーン王国はなくなる。しかし、民族浄化かそのままの形で、生活が出来るようにするか。
父の決断は、民族浄化よりより飲み込みやすい条件を出してきた、王国に下ることだ。其れが今の邦の形だ。
「確かにマリアにそっくりなのは認めますが、ハーケンは其れを認めているのですか?」
この疑問は、愚かなことだと思う物の、如何してもデニム子爵は尋ねないでは居られなかった。後で、彼奴に問い詰めなければ行けないだろうか。中々困難な、作業になることは明白で、内心げんなりしてしまう。
恐らく、姉上はそのあたりも確認したと思うのだけれど。きっとハーケンはそれに答えていないのだろう。だからこそ、姉上は自分の心証のみしか、口に為なかった。
「本音は私の娘を取り戻したい。養女という形でも、デニム家の娘に戻したいと思っているわ」
「その為に、私の所に連れてきたわけですね。処で、ナーラダのリコはその事を承知しているのですか?」




