変わり果てた故郷 8
あたしは村の衆の亡骸に、シーツを載せて顔を隠す。急いで埋葬しなければいけない事は、この腐敗臭が知らせてくれる。夏のこの時期に、ここに放置しておけば、生きの残った家族には、更に辛い事に成るだろう。腐敗した家族を見たいとは誰も思わないのだから。
早く決壊した場所を補修してしまわなければいけない。未だに運河から、水が村の中に流れ込んでくる。
勿論ここには、重機はない。すべてが手作業に成るため、簡単に流れ出てくる水を止めることは出来ないのかも知れない。あたしはまずは現場を見に行こうかと思う。場所は見当が付いている。
恐らく粉碾き小屋から少し上流に行った場所だろう。あたしは良くそこから運河に飛び込んでは、魚を突いたりしていたから良く知っている。そして、最近酷く傷んでいた事も。
真逆こんな事に成るなって、あたしは思いもよらなかった。こんなに強い台風が、大陸の内陸まで入り込んでくる事は今までなかった。恐らくデニム伯爵夫人も想定していなかっただろう。だから運河の補修がなされていなかった.
だから、今回の大雨によって、こんなに被害が大きくなった。ナーラダ村の小麦畑の三割が、水没しており。未だに水が引いてこない。この分だと、下流にある幾つかの村でもかなりの被害が出ているだろう。救援部隊の任務は、ナーラダ村と下流にある村に対する支援である。
だから、何時までもこの村にいることは出来ない。
「リコさん。ここに居たんだ」
あたしが教会から出ると、村の子供達と話していたメイド三人衆の一人。ケイトさんが声を掛けてきた。彼女は黒い紙を三つ編みにしている十五歳の少女だ。一応先輩だけれど、あたしに言わせればドジっ子メイドさんである。
「ドリーさんが呼んでるわよ」
「えー」
「急いで運河の壊れているところに来なさいって」
早くも村長さんとの話し合いが終わったのだろうか。あたしが奥様に提案した、補修方法の説明を、遣りに来いと言うのだろう。生意気に言ったのは失敗だったかな。
その事を説明しているときの、アリス・ド・デニム伯爵夫人のまるで蕩けるような笑顔を思いだした。彼女は、いつもあたしと話しているときは酷く機嫌が良かった。
だって、あたしは赤ちゃんの時に死んだことに成っている。あたしが、マリア・ド・デニム伯爵令嬢と似ているのは、他人のそら似と言うことに成っているはずで、血がつながっていることに気付かれているわけがない。
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