大迫力の模擬戦 7
今度は十対一のハンデ戦。武器の使用は自由。勿論、刃の方は危険性のもないように工夫された物。
十人の兵隊さんの方は、使い慣れた槍を全員が持っている。そのうち、三人が小さいけれど、鉄で補強された丸盾を腕に括り付けていた。今回砦の庭に出て来ている兵科が、槍なのだから当然のことだ。それに対して、父ちゃんの方は短弓に鏃に布を巻き付けた矢が十本。腰にはばかでかい木剣が下げられている。更に言うと、剣を提げているベルトの反対側には、袋に入れられた小石が提げられている。
あたしは、あの父ちゃんの姿を見て、怖いなって思った。あたしが昔お気にだった、ワンマンアーミー物の、中世板のような感じがしたからだ。怪我人があんまりでないと良いと思う。
流石のあたしでも、全員にお見舞いを持って行きたくは無い。正直小遣いが無くなってしまう。
一応怪我をしても、此所の責任者をしている子爵が責任を持ってくれるだろうけれど。あんまり気分の良い物ではないからね。
今回は昨期とは違い、かなり広く場所を取ることに成った。何しろ、父ちゃんは弓隊の隊長には違いないんだし。ましてや、始めから十人に囲まれたら、流石の父ちゃんでも、何も出来ないまま終わるか。手加減が出来なくなって、死人を出すようになるかも知れない。其れはかなり不味いことになるから、其れなりに動けるように為て貰わないとね。
あくまでもこの催しは、兵隊さんの訓練でしかないのだから。
あたしも、こんな不利な条件で、小隊の連中と遊んだことが有るのだけれど。あれは、かなり条件が異なる。こんな平たくてだだっ広い場所ではなかった。あれは森の中の、殆ど灯りが無い状態で、一対十なんていうハンデ戦でもなかった。味方が、全滅してしまい。仕方が無く、映画の主人公のように、ゲリラ戦を仕掛けたから、何とかなったんだ。
こんなに明るくて、何の小細工も出来ないような場所だと。ボコボコにされて、お仕舞いになる未来が見えるような気がする。
実際、新兵とは言っても、ずぶの素人ではないからね。少なくとも、戦力の数に数えられるような連中だ。もしも戦争になったら、戦場に出すことが出来る兵力。昔見た時代劇のように、主人公が無双なんか出来るわけが無いんだ。
あたしは、ベテラン兵士さんとの試合より、こっちの方が怖い。例え、個人的に強かったとしても、取り囲まれて動きを止められたら、流石の父ちゃんだって危ない。何時までも手加減できるとも限らないのだから。
父ちゃんが短弓の矢と投石を武器としたのは、取り囲まれないための常套手段だ。流石に、遠距離武器を持っている人間に、槍の、間合いから試合を始めう様とは言わないだろうから。
審判の隊長さんが、此所で隊全員に庭の端まで、後退するように命じた。良く訓練されているのか、あるいはそう言う打ち合わせになっているのか、とっても早く場所が確保される。空けられた場所が、今回のハンデ戦のフィールドと言うことに成るみたいだ。
徐に隊の中から、出て来たのは新兵?といえそうな兵隊さん達だ。新兵とは言っても、結構経験豊富な面構えをしている。つまり、新兵は新兵でも、ただの新兵でもないって事だ。
連中はやる気満々で、この庭の端に勢揃いしている。一応良かったことは、全員が槍を抱えていたことだ。つまり、距離さえ有れば一度に全員と遣らなくても済む。
何しろこの十人の出来ることは、そんなに多くない。なるべく早く、父ちゃんを取り囲んで、ボコボコにする以外にないのだから。他の兵科の人が居なくて良かった。




