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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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初めてのお使い 5

 堅牢な造りの砦の中の、中庭に入っていくと、当たりには総勢五十からの男達が、綺麗に並んで、あたし達を出迎えてくれている。この砦は、領都を守る出城の一つだそうだ。勿論城下町と言える街も抱えては居るけれど。周りを矢張り堅牢そうな、城壁で囲まれている。

 ディーン・デニム子爵という人物は、街の人達からは好かれているのだろう。この砦までに、あたし達が付くまでに、何しろ笑って出迎えてくれる人達がいたからだ。

 戦争をするための、砦なのだけれど。其処にも色々な人達の生活が、間違いなく存在しているんだ。この砦の周りにある街は、砦に詰めている兵隊さんの生活をまかなうための物だ。

 何しろ、兵隊さん達だって人間だ。何時も青筋立てて、訓練を為て居られるわけじゃ無い。そんなことばかり遣っていたら、何処か可笑しくなってしまうだろう。

 父ちゃんが操る馬車は、ゆっくりと一番身なりのいい男の前に止まった。此れまで護衛を為てくてくれた、騎士様達も馬上から降り立つ。

 其れが合図になったのだろうか、この庭に勢揃いしている兵隊さん達が、一斉に敬礼を為てくれる。流石の練度だと思う。領都に居る兵隊さん達も、かなりの強者がそろっているけれど。此所の人達は、見た目は何処か山賊っぽいにもかかわらず。動きは機敏で、全員体格もかなり良い。間違いなく脳筋集団に違いない。基本的に兵隊さんは、脳筋でない方が少ないのだけどね。

 この二日間、あたしはこう言ったタイプの砦周りで、つまらない報告を奥様の隣で、拝聴することが仕事になった。早く終わらせて、ナーラダ村に向かいたい。

 馬車をあたしの方が先におりる。流石に二日間のあいだ、其れが決まり事のように、まるでルーチンワークのように動く。因みに、馬車の扉が開くと、父ちゃんが台を置いて、あたしを恭しくエスコート為てくれる。正直、気恥ずかしい気分に成り柄も、マリアのようにお礼を口にする。後で父ちゃんには、からかわれるに違いない。

 父ちゃんだって、普段の荒くれ者の顔を何処かに置き忘れている。綺麗な黒い御者の制服に、腰には短剣を下げている。普段使っている、馬鹿でかい剣と弓の方は、御者席の後ろに隠してある。ここまで来る間に、あれを使うこと無くすんで良かったと思う。

 この邦の中で、いくら治安が悪いと言っても、デニム家の紋章を付けた馬車を襲撃するような、頭のいかれた人間は居ないだろうけれど。ただ、この間のように、壊れてしまっている人間は居るから。困りものだと思う。

 あたしは、何故か奥様が作ってくれていた、ピンク色の可愛らしいドレスの裾を、左手につまんで、右手を父ちゃんの左手に軽く乗せる。ごつくて堅い父ちゃんの手のひらに、あたしの小さいけれど同じように堅い手の感触を感じる。

 正直、あたしの手は令嬢の手とは言えない物だ。最近は、マリアも短弓の練習を為ているから、少しだけ似てきてきては居るけれど。触られたら、なんちゃってマリアが張れる。


 


 

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