初めてのお使い 3
領都から北西に、馬車で半日が過ぎようとしている。この辺りは、伯爵家の直轄地になっている。ウインストンという街だ。人口は五千人を超える規模だから、街と言うことになっている。
この街は、主に小麦畑に囲まれた、其れなりに栄えている。奥様が把握している直轄地の中では、上手く行っている街の一つらしい。確か、この街を実質管理しているのは、奥様の従弟のディーン・デニム子爵だっただろうか。因みに、あたしは一度として、有ったことが無かったりする。
個の三日間、主に直轄地巡りを為ていたわけで、此れは旦那様と行く予定の行事だったらしい。其れが、あの暗殺未遂事件のお陰で、旦那様は王都に急遽お帰りに成り。何故か、あたしがマリアの身代わりで、こうして奥様のお供をする羽目に成っているって分け。
本当なら、あの旦那様は正真正銘の屑だ。さくらいろのきみに・・・のストリーからすると、かなりの屑だって事は判って居たけど。隣国のいわゆる情報機関みたいな組織があって、其奴らの仕業なのか、それともこの王国の支配者階級が、其れをお膳立てしたのか、あの旦那様が何か良からぬ事を目論んでいたのか、一寸その辺りは判んない。残念だけど、何も確実な証拠になりそうな物がないんだよね。
思うのだけど、前世の記憶があったところで、あたしが知っていることは、ゲームさくらいろのきみに・・・のなかで、描かれていることだけだ。其れも、 マリアが入学してからの2年間のエピソードしか知らない。何しろ、その僅かな間に、一国が滅ばされるような戦争が起こるのだから。
あたしはその戦争の起こりを、悪役令嬢マリアの所為だと思ってたのだけれど。どうも、其れだけでは無かったのかも知れない。何しろ、この国の防衛の要になっている、マルーン邦のアリス・ド・デニム伯爵夫人に対する、執拗な攻撃が続いている。
此れって、奥様を何者かが、潰したくて仕方が無かったのかも知れない。その一貫として、悪役令嬢マリアを填めたのかも知れない。もしもそれなら、大夫事情は変わっていると思う。
何しろ、ナーラダのリコはこのあたしなのだから。此れから起こるかも知れない事件を、其れなりには把握できている。勿論、今回みたいにあたしの知らないようなこともあるのだけれど。無いよりはましだよね。
冷静に考えてみれば、いくら貴族の令嬢だからと言って、その我儘の行動で、国が滅ぶような事件を起こせるわけが無い。ましてや、彼女は伯爵家の令嬢でしか無いのだから。
あたしは奥様の楽しそうに、この直轄地に対する説明を聞きながら、そんなことを考えていた。この人が、折れるとこの国を守る力が弱まってしまう。其れは、あたしが大事に思っている、ナーラダ村やティア村も踏みつぶされてしまう。何しろ、あの野蛮人達は、まるでイナゴの大群のように、支配した地域を磨り潰すことに躊躇しないからだ。
少なくとも、あたしはゲームさくらいろのきみに・・・の物語の中で、語られていることを知っている。きっと、其れはストーリーの都合で、誇張されている物だって思っているけれど。本当にそうならないって言う保証は何処にも無いのだから。




