とある私兵の記憶
私兵詰め所の一郭にある、俺は取り調べ室の堅い長椅子に座らされている。この部屋は半地下になっており。室内の声は外には聞こえない工夫がされている。雨が降り始めているせいか、石壁が心なしか濡れている。拷問はされては居ないが、あまり気分の良い場所では無い。
捕らえた誘拐犯もこの部屋の側で、少々きつい取り調べに合っていることだろう。俺は娘のことが心配になってきた。まさか12歳の子供をこんな場所に入れたりはしないとは思うが、もしそんなことをしたらただでおかない。結構俺は強いのだ。昔はデニム伯爵の私兵団の中では上位5人の中に数えられていた。
案外団長あたりは、俺のことを覚えているかも知れない。覚えていたら少しばかり面倒かも知れないが、それでも何か言われる筋合いでは無い。
俺は、先代のデニム伯爵に命じられて、双子で生まれてきた片割れを森の中に捨てた。まだ乳飲み子だったのに、母親から引き離して、薄暗い森の奥に捨てたのだ。
この国には双子を嫌う風習があり。獣腹と言って貶めるような傾向があった。それが、次期領主の妻が獣腹となったら、大変外聞が悪い。当時の領主は、生まれてきた子供のうち、秘密裏に無かったことにしたのである。
その汚い仕事を俺に命じた。
そのときの領主は、たまたま側に居た俺と目が合っただけの理由で、乳飲み子を捨ててくるように言ったのだ。正直辛かった。その頃の俺は、生まれたばかりの娘を亡くしたばかりだった。失った赤ん坊のことで、俺の妻は精神的におかしくなり。失ったを赤ん坊を探し歩くようになってしまっている。
俺は断腸の思いで、すやすや眠っている双子の片割れを、森の奥のでかい洞の側に捨てた。そのままでは、赤ん坊は半日も生きてはいまい。其れは判りきったことで、でも命令を違えることは出来なかった。
森をでて、馬をまたせている場所まで戻ったと頃で、俺は先に進むことが出来なくなった。どうしても見捨てることが出来なくなった。
おれは、赤ん坊を捨てた洞の側まで駆け戻る。
ニコニコわらう。赤ん坊を守るように、山猫が蹲っていた。