朝食は固いパンと干し肉のスープは定番 5
「其れは違いますよ」
お節介とは思いながらも、あたしは言葉を掛けてしまった。貴族のご令嬢に対して不敬だとは思うけれど、この状況では此れでも贅沢だとは思う。言ってみれば、今は非常時なのだから、たとえ貴族だとは言っても我儘が通るはずはない。テーブルに座って、食事が出来るだけでも、贅沢と言う
「何よ。貴方は平民だから、こんな食事でも我慢できるのでしょうけれど、私には無理だわ」
伯爵令嬢の栗色の瞳があたしを捕らえていた。十二歳の子供にとっては、この道行きは辛い物なのかも知れないけれど。自分たちより立場の弱い人を、飯給って良いわけではないだろう。あんまりな事を遣っていると、本当に悪役令嬢の役回りを受け持つ事になる。何しろ悪役令嬢マリア・ド・デニム伯爵令嬢で有ることには違いないのだから。
「この食事は兵隊さんが作った物でしょう。ここには料理人は連れてきていない上に、食材だって、持ってこられては居ないのでしょう」
「本当はあたしだって、お母様と一緒に居たかったのに。なんで私だけこんな思いしなければならないの」
伯爵令嬢は泣きながら、スプーンでスープをすくって、口に流し込む。ちなみにスプーンを使って、スープを飲んでいるのは彼女でだけである。旅先では、平民も貴族も変わらない。スプーンなど使わない。旅先での食事とは、簡単に腹を満たす事ができ、あまり荷物にならないことが優先される。
最悪、固いパンと干し肉だけを、火に炙って食わなければならなくなる事だってあるのだから。貴族には考えられない事かも知れないが。有事にはそう言うことだってあると、父ちゃんに聞いた事がある。其れは常識の範疇にあることだ。
「貴方だけが辛い思いしてるわけじゃなくてよ。周りを良く見てご覧なさい。テーブルで食べているのは、貴方だけではないの」
周りに居る兵士さん達なんかは、地べたに座り込む物や倒れた木に座って、食事をしていたりする。酷い者になると、歩哨をやりながらパンを囓っている者も居る。職場と考えると、間違いなくブラックには違いない。兵士なんてそんな者なのだろうけれど。身体には言い分けない。
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