朝食は固いパンと干し肉のスープは定番 3
ドリーさんの指示に従い、仕方なくマリア・ド・デニム令嬢の側に張り付く事にした。彼女はメイド三人組に、ワンピースを着せられ、馬車の中から引きずり出された処だった。
彼女は、馬車の中から出る事に対して、嫌で仕方が無いみたいである。多少なりとも、掠われたことが、心の傷に成っているのかも知れない。確かに掠われたのは、ついこの間で十二歳の女の子なのだから、お母さんに甘えていたいのも解る気がするのだけれど。ゲーム通りなら、既に鬼籍に入っているわけで、出来れば少しでも早く立ち直って欲しいと思う。名目上ではあるけれど、救援部隊の長になっているのだし、確りして貰わなければならない。
「お嬢様。お似合いですよ」
あたしは、心にも無いけれど、どのように声を掛けて良いか解らないので、とりあえずそう声を掛けてみる。貴族のご令嬢との会話は、どうしたら成り立たせる事が出来るのだろう。誰か教えて欲しい。
此れでも十七歳までは、前世で生きてきた記憶も、この世界に転生して気がついてから、七年は生きていたけれども。同年代の貴族の女の子と話した事なんか無かった。デニム夫人は、貴族ではあるけど雇い主との事務的な会話だったので、話す内容に関しては困らなかった。
デニム伯爵令嬢は、少しはにかむようにしながらも、微笑んだ。
「ありがとう。嬉しいわ」
定型道理のお礼が返ってくる。此れってたぶん条件反射的な返しに違いない。此れって無意識的に応えているのだろう。
唐突に、あたしは貴族の令嬢って大変なんだって思う。まだ子供でしかない、彼女がまるで大人の女性のように、周りの心にもない言葉に反応しなければならないのだから。あたしなら、いたたまれないかも知れない。だって恥ずかしいでしょう。
やはり彼女を助けたのは正解だったかも知れない。此れで、あたしは悪役令嬢には成らなくて済むかも知れないし。付け焼き刃で、貴族の中を生き抜いてゆくのは大変ストレスになる。前世も含めて、柄の悪い人間の中で育ってきたのだ。どんなに頑張っても、立派な貴族女性には成りようが無かった。
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