ナーラダ村へ 3
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辺りが暗くなってきた、心なしかお腹もすいてくる。あたしは豪華な馬車の中で、涙目である。つまんないのだ。荷台の上で荷物扱いされていた方が、どんなに楽しかっただろう。何だったら、兵士の人に交じっていた方が楽しかったのではなかろうか。こんな所に居るのなら、粗野でいやらしいオッちゃん相手に遊んでいた方が楽だ。
流石に一時間ごとに、休憩を入れてくれるけれど。それでも、馬車に乗っているだけは疲れる。ぶっちゃけしんどいのだ。その上、目の前にはハリネズミ女の伯爵令嬢が、あたしを睨み付けているのだから、たまんない。少しつり上がった瞳は、敵意で一杯で、よくこんなに長い時間睨み付けていられるなと思う。あたしにゃ無理。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢は誘拐されたばかりで、精神的に参っているはずで、本当ならお屋敷で、伏せっていても可笑しくない。あたしは、同情する事もやぶさかではやぶさかではなかったけれど、こんなに刺々しくされると、いい加減腹も立ってくる。
窓の外は、既に暗くなってきているし。あたしのお腹は今にも鳴き出しそうな状態だし。移動しながらでも良いから、何か食わせろと言いたい。育ちの悪さが顔を出しそうだ。ちらと見えた、騎兵の兄ちゃんなんか、馬に乗りながら何か食っていたのを目撃していた。懐から取り出していたところを見ると、焼き菓子の類いに見えた。それでいいから食わせろ。
「クリス様。そろそろ休憩に致しませんこと」
デニム伯爵令嬢が、中年の文官氏に言った。言ってくれた。
「あと少し行きますと、広い場所に出ます。其処まで耐えていただけませんか」
フウフウ言いながら、クリスと呼ばれた文官が応える。顔にはお願いという文字が浮かび上がっている。
ちなみにこの会話は、既に三回は振り替えされている。馬のことや一緒に行動している、兵士さんのことを考えるのなら、適当なところで、休憩を取って食事を取らなければならないだろう。
だけれど、今、走っている場所は林の中で休憩をするのには、適当ではないかも知れない。解るんだけど、あたしは腹が空いたんだ。内心デニム伯爵令嬢のことを応援する。
ゆっくりと、馬車が速度を落とす。休憩の雰囲気ではないけれども、静かに馬車が止まる。
御者台の乗っている、兵士さんが此方に向き直り。声を掛けてくる。
「お嬢様。カンテラに灯を入れますので、少々時間をください」
「では、ドリー。お茶の用意をして」
「申し訳ありませんが、馬車からは降りられませんように。ここでは、見通しが悪いので危険でございます」
兵士さんは申し訳なさそうに言った。休憩ではなさそうである。