ナーラダ村へ 2
伯爵家の馬車は、六人乗りではあるけれど、満員で良いと言う物ではないと思う。体格の良い護衛兵の男性が二人も、其れも皮とは言え鎧を着ていれば、嵩張るのは当然で。あたしとマリア・ド・デニム伯爵令嬢とメイドのドリーさんでもかなり厳しい。更に中年の文官のおじさんが、大汗をかきながら、あたしの右隣に座っている。
「あのー。あたしは後ろの荷馬車に乗ろうか」
この暑苦しい状態に耐えかねて、後方にある荷馬車に乗りたくて、提案をしてみた。正直暑くてたまらない。窓を開けて、風が入ってきているとは言え。暑いことには違いが無いのだ。
「いえ。だめです。奥様に言いつけられておりますから、人は馬車に乗るべきです」
メイドのドリーさんが、真剣な顔をして否定してくる。本気でそう考えてるみたいなのが怖い。
「えー。あたしは荷物と一緒でも良いのに」
御者台はいっぱいで、荷台には荷物満載してるけど、ここみたいに、居心地は悪くないだろう。この馬車は暑いのもそうだけど、空気も悪かった。二重の意味でね。
二人の護衛さんは、我関せずという態度をしているし。伯爵令嬢はあたしのことが嫌いなのか、まるでハリネズミのようにとげとげしてる。ドリーさんは主に伯爵令嬢のことばかり気にしている。誰か助けてとあたしは言いたい。
「良いわよ。貴方みたいな人は、荷台の上でも問題ないのでしょう」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢がとげとげした声音で言った。あたしと同じ顔の、頬をぱんぱんにしながら言ってくれた。ちょっと嬉しい。
「お嬢様申し訳ありませんが、今の彼女はメイド服を着ております。貴族に使えるメイドは、荷馬車の荷台に乗っては移動しません。御者台には、既に乗る場所もないのです。流石に歩くわけにはいかないでしょうし、兵士の所に行かせるわけにも参りません」
あたしが、マリア・ド・デニム伯爵令嬢にお礼を言う前に、メイドのドリーさんが否定してくれる。余計なお世話なんでけどな。
もしかして、この人平民のでのメイドじゃないのかな。侍女って奴。この人も頭堅い系。ドレス着ていたらもっと窮屈な思いしていたのかな。あたし、ドレス着なくて良かった。