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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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お姉ちゃんは悪役令嬢?7

 あたし達の荷馬車が本街道に入ると、辺りの景色は一変する。見渡す限りの小麦畑が広がっている。金色の穂は、よく実っているようで、やや下を向いてゆらゆら風に揺れている。視線を空に向けると鳶が悠然と飛んでいる。夏の雲は少し色が濃くなってきたように見える。

 あたしは午後には雨が降るかも知れないと思う。オープニングシーンには無かったことだ。もっとも、あと少しも馬車を走らせれば、マリア・ド・デニム伯爵令嬢の捜索隊に遭遇するはずで、雨が降ろうとデニム家の支配する、街デイロウに入ることになる。ゲームのオープニングシーンには、こんなことまでは描かれていない。

 さすがに本街道は、ちゃんと整備されていた。荷馬車の揺れは気にならないほどに静かである。勿論現代の道路とは比べものにならない物ではあるが、石畳の路面は都市が近いことを表している。

「そろそろ来る頃だよ。お嬢様良かったですね。お迎えがやって来ますよ」

 あたしの隣で、小さくなっていたマリアお嬢様未だ緊張が解けないのか、強張った顔を向けてくる。助けてあげたのに、お礼を言うことも無く嫌な視線をあたしに向けてくる。嫌な感じだ。

 緩く曲がりくねった街道のさきに、5騎の騎兵が見えてきた。かなり急いでいるようで、相当馬に無理をさせている。だいぶ時間がたっているから、本当なら手遅れなんだけど、それでもあいつらは走らなけりゃ成らない。まあ、運良くお嬢様は無傷でお家に帰ることになるんだけどね。

 あたしは想定通り、騎兵の小隊長フレデリック・アーロンを納得させて、お嬢様を無事に領都に連れ帰らせて、勿論報奨金をがっぽりいただければ、今回の作戦は終了かな。

 何しろマリア・ド・デニム伯爵令嬢は無事に取り返し、誘拐犯は父ちゃんの荷馬車に転がされている。これで、事件は解決。

 あたしはこのまま、父ちゃん達とナーラダ村に帰って、貴族達の権力闘争からの内戦は起こらない。

 下々の者にとっては、まともな領主なら誰が成ってもかまわないのである。それがまともなら。

 あたしは此れから、どっぷりと貴族達の権力闘争の渦に巻き込まれることなど考えもしていなかった。

 あたしは、もう一人のマリア・ド・デニム伯爵令嬢になってしまう。悪役令嬢(仮)って無いよね。

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