食事のひととき
住民の好意での炊き出しは、主に街の商人ギルドが中心となって、振る舞われた。とりあえず塩味の強いスープと、パンがみんなに渡される。この配給の大本には、デニム伯爵家の方から幾ばくかのお金が回されることには成っているらしい。それでも、初動時にはギルドの持ち出しである。なんだかんだ言っても、この領都の人々はまともな人が多いみたい。ディンギルドのジェフリーみたいな人が多いのだろう。もっとも、あの人が真面かどうかは、疑問ではあるけれど。
湯気の立っている深皿に、立ったまま直接口を付けて塩辛いだけのスープを一口。今は涼しいけれど、夏場には違いないので、この塩分は、必要ではある。前世の夏の暑さとは比べものにならないほど、過ごしやすいけれども、暑いことは間違いないのである。
あたしの周りに居る人間で、座って物を食べている者は居ない。まだ修羅場は、終わっているわけではなかったのである。とりあえず休憩を取っているだけなのである。実際、交代制で休んでいるだけで、他の組は働いているのだから。
あたしの周りには、父ちゃんと私兵達が集まってきている。みんな中年にさしかかっている人がほとんどで、父ちゃんとは顔見知りみたいである。でも、決して楽しい関係ではないみたいでもある。見張りにきている雰囲気もしていた。
「おまえ腕を上げたな」
近くでやはりスープを飲んでいた、領都の私兵が声を掛けてくる。体格の良い彼は、既に鎧を脱いで、本格的に休憩モードに、入っている顔はそれなりに経験を積んでいる男の顔をしていたけれど、まだ子供っぽさが残っているように見える。でも、間違いなく父ちゃんとそんなに違わない年齢だと思う。
「それほどでもなかろう。どちらかというと道具が良いからな」
父ちゃんが自慢げに、傍らに立てかけている弓を見詰める。
「すげーな。こいつの射程はどれくらいあるんだ」
「水平射撃で、二百メートルまでが射程距離になるな。届かせるだけなら、四百メートルまでならいける」
「通常の弓の倍の飛距離だって。おまえ、其れどこで手に入れた?」
「俺が作った」
「俺にも作ってくれよ」
父ちゃんが、あたしのアイデアで完成させた弓について自慢している。これだけは、前世の記憶の恩恵かも知れない。実はあたしには兄貴が居たんだけど、大学の弓道部の部長で、とんでもなく堅い弓が何本も転がっていた。その構造は、比較的詳しく覚えていたので。父ちゃんに教えてみたら、作っちゃったのである。大げさかも知れないけれど、オーバーテクノロジーの産物かな。




