夜が明けて
この時期の朝は早い。昨日までの大風は嘘のように、優しい物になっている。でも、あたりに立ちこめる焦げた臭いは昨夜の惨事を、否が応でも実感させる。
初動が早かったので、思いの外に被害は少なく済んでいるとは言え。決して喜べる物ではない。死人が出なかっただけで、焼け出された住人は、十七人もおり。そのうち、重傷を負った者は三人も居たのである。軽症者は二桁に上っている。
ちなみに、誘拐事件に関わっていたと思われる、鼠さん達は生きて捕らえることが出来たのは、三人だけだった。後は死んだか逃げられたらしい。あたしには誰も結果を話してはくれなかった。ただ、何となく漏れ聞こえてきたことを総合すると、今回の作戦は失敗に終わったみたい。たぶん、この火事は、姿をくらますためとあわよくば、伯爵夫人を暗殺する機会を作ろうとして、行った無茶だったみたい。
流石に、あたしも眠くて仕方が無いかった。オールで朝になってしまった。
何しろ、火を付けられた家屋はまだ鎮火すること無く。未だにくすぶっている。消化とは言っても、消防車があるわけでは無く。周りを壊すことで、燃え草を無くして消えるのを待つような消火しか、この世界には無かったのである。しかも、専属の消防士は一人も居らず。町の人と、私兵の協力で行うしか無かった。それじゃ、この程度で済んだのは運が良いと言えるかも知れない。
「眠そうだな」
父ちゃんが、あたしの顔を覗き込みながら言ってきた。何しろあたしは、まだ十二歳の子供なのだから。まあ、中身は別だけど。
父ちゃんはまだ、大丈夫そうな顔をしている。既に中年だったはずだけど、基礎体力が違うのだろう。あたし的にはちょこっと悔しい。
此れからの予定としては、此れからあたしと父ちゃんは第二次救援部隊とともに、決壊による被災地に向かうことになっている。結構ハードな状況と言うことが言えるだろう。ちなみに、伯爵夫人は領都に残って後処理をしなければならないそうで。マリア・ド・デニム伯爵令嬢を名代として、第二次救援部隊を指揮するんだってさ。あの子には無理だと、あたしは思っているけど。
それで、彼女の影として、あたしが一緒に行くことになったのよね。此方としては、ナーラダ村に行けるのだから、ちょっと嬉しい。




