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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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鼠さんの逃走

 眼下に見えるいくつもの炎は、想定するよりも少ない。領都における作戦は失敗に終わりそうである。そして、デニム伯爵家のお屋敷からは、火の手が上がる気配が全くなかった。これまた、合流する予定だった護衛を兼ねた、手練れとは未だに落ち合えずにいた。そちらは完全に失敗してしまったのだろう。

 ノア・グレンは、どちらも見える場所に陣取りながら、大きくため息をついた。彼の隣には、傭兵の男が立っている。何時、裏切られるか判らない暴力装置である。流石に一人で夜の、裏道を歩く気にはならない。護衛もなしに、この国の王都へと抜ける行為は、自殺行為には違いないから。

 屋敷への攻撃は、念のための保険のような物であったが、旨く行けば徒歩による逃走を、避けることができるかと思っていた。伯爵夫人の対応がまるで、読み切っていたかのような初動である。考え得る最悪な動き。

「なんともまぁ。見事な動き。此方の手を読み切ったとは、流石の一言ですね」

 ノア・グレンは一人呟いた。隣に経つ傭兵が何か言うことなで、全く期待して居ない。所詮は殺し殺されるが生業のげせんの者なのだ。いきなり追いはぎに豹変しなければ、其れで良いだけの存在なのである。払っているだけは仕事を期待するが、それ以上のことまではされても困る。計算出来ない動きは歓迎しないのである。

 伯爵夫人という女傑は、彼の読みを遙かに上回る情報収集能力を持っている。此れまでのことから、よほどのことが無ければ崩すことの出来ない、国の守護者と言って良いだろう。彼女が有る限り、彼の国はこの国に対して、手痛いしっぺ返しを受けることになるだろう。

 ノア・グレンの身はかなり危なかったのである。いつもの予感が知らせてくれなかったら、デニム伯爵夫人の影に追いつかれていたかも知れない。逃げるために今回は、少々荒っぽい謀を仕掛けた。其れが、領都の放火である。そのどさくさに紛れて、領都からの脱出をしたのだ。

 他の間者達に話した計画では、この火事に紛れて伯爵夫人の暗殺。其れがかなわなくとも、彼女の領民の不信をあおるという企みである。今回の嵐による初動が少しでも遅れれば、事態は此方の思うがまま。伯爵家の権威が地に落ちる事になるはずだった。此れでは全く期待外れである。

 此れではますます、あの女傑の権威が枡ばかりである。

「まあ、せっかく作った組織ではあるけれど。今のところ休眠させておけば良かろう」

「さてと、此方も追っ手がやってくるとも限らない。取り合えづおいとましようじゃ無いか」

 ノア・グレンは、踵を返し。王都へと向かうのであった。

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