夜の散歩 14
読んでくれてありがとう。
余裕が今有れば、近くの危険な場所には立ち入り禁止にすれば、何の問題も無いのだけれど。困ったことに、全く余裕がない。たぶん其れは、相手も同じだったのだろう。だから、火を付けるなんて非常手段を執った。出来ればこんな事は、して欲しくなかったけれど。
あたしは内心怒っている。だって、行ってみないと判んないけど、知り合いが大変なことになっているときに、こんないけない事をするなんてとんでもない。そのおかげで、もっと酷いことに成ったらどうしてくれるんだ。故郷のみんなは大事なので、とにかく何かあったら許さないからね。
ちなみにナーラダ村は、人口二百人くらいの小さな村なので、全員があたしの知り合いなのです。全員気のいい人ばかりでは無いけれど、決して嫌いでは無いのよ。前世の時とは違い、みんな生きるために必死なのです。そんな感じは居心地が良かった。
又目の前で、人殺しをさせるわけにはいかないし、その理由が頼まれたからって言うのは、認めたくはない。
「ところで、やっぱり殺す気なのか?」
父ちゃんが、あたしの指先を注視しながら聞いてきた。
「出来れば殺して欲しくないかな。でも、絶対とは言わない。左に三度下に八度くらいかな。撃て」
父ちゃんの弓から、弦のはじける音ともに、鏃に毒を付けた矢が撃たれる。此れは、暗殺者の意表を突いたと思う。ちなみに、今回はお互いに射程圏内なので、伯爵夫人を狙っている時を此方は狙った。此方にあるのは、あたしの目だけなので、安パイとは言えない。
父ちゃんの打った矢は、暗殺者の弓を持つ左肩に命中した。トタンに、奴は此方をにらむ。罵り声が聞こえる。
次の瞬間、暗殺者の矢が此方に向けて放たれた。トンという音を立てて、教会の塔の壁に、矢が刺さった。
下を見ると、早くも反応した
騎兵のオッちゃん達が、伯爵夫人の周りで、盾を構えて彼女を守る体制を取っている。まるでいつも訓練しているように、見事な連携である。
暗殺者肩の刺さった矢を、右手で引き抜く。此方に反撃してきただけでもたいした物だけど、鏃には毒が塗られている。無力化するのは時間の問題だろう。あたしは、転げ落ちないと良いなと思う。此れで、暗殺者は、屋根の上で動けなくなるはず。
あたしはため息を漏らした。流石にこれ以上暗殺者は、出てこないだろう。もし居たとしても、弓を塚っての狙撃できる状況はない。
近づいて切りつけるくらいか。其れは不可能だろう。周りには四人の護衛兵がいるのである。その間隙を縫って、攻撃するチャンスは今しか無かったはず。
「さて、今しばらく見張りをして、問題なければ、鼠退治組の支援に行くぞ」
父ちゃんが言った。もうこれでいいよねとは思うんだけど。父ちゃん働き者過ぎる。