夜の散歩 13
いつも読んでくれてありがとう。
あれからしばらく経って、あたし達は街の中心付近にある公園を見下ろす教会の、正面中央に有る、高い塔の最上階に陣取って、異変がないか気を配っている。無い物ねだりではあるけれど、前世にあった通信機がほしい。ここからは、領都の様子が一望できる上、公園で治療に当たっている人々の様子も見える。ちなみに、伯爵夫人は公園で、避難してきている領民とともに居る。
流石に、ここからでは、何をしているのかまでは解らない。
未だに火事は、鎮火の気配はない。ただ、周りの建物を壊し始まっているので、流石に燃え広がるのは、辛うじて止めることに成功している。街に住んでる男達も協力してくれているので、だいぶスピードアップしてきている。それが命令ではなく、デニム伯爵夫人がきたことで、みんなが率先して動き出した。
ここから見ている限りでは、放火犯人を見つけることは出来そうも無い。もっとも、見つけることが出来たとしても、ここからでは何も出来はしないのだけど。あたしは、つくずく現代日本は便利に出来ていたのだなあと思う。
あたしは、せめて消防隊みたいな物があった方が、良いのかも知れないと思った。後でそれとなく話してみようかな。
そんなことを考えながら、 あたりを見張っていると、向かい側の建物に、何者かが登ってくるのが見えた。
そいつは、職人風の格好をして、短髪の黒い髪にうっすらと無精ひげ。肩には弓を提げている。腰には、矢筒を下げている。間違いなく暗殺者よね。こっちも同じ格好だけど。
こっちはSPだから、怪しくない。ところで、SPつて何の訳だっけ。ドラマなんかに出てくる言葉で、格好良く誰かを守る人なんだけど。何となくテレビ見てたから、解んないや。ここじゃ誰かに聴くわけに行かないしね。
教会前の公園は、篝火が焚かれており、明るい。当然のことだけど、狙撃手にとっては好条件だろう。しかも上からならば、飛距離も伸びる。
奴は、此方にはまだ気付いていないみたいだ。何しろ此方は、灯りを持っていない。あたしのは関係ないから。
「父ちゃん、お客さんだよ。お仕事しようか」
「おまえみたいには見えないんでな。説明しろ」
「向かいの、建物の屋根の上に上がってきた。奴は弓を持ってる。たぶん狙撃しようとしてるんだろう。狙いは明らかだよね」
父ちゃんは、にやりと悪い笑いを浮かべて、強弓を準備した。今回は毒矢を使う。勿論毒と言っても、すぐ死ぬような物ではない。暫くの間、動けなくなって貰うだけだ。
屋根の上だから、落ちてどうにかなるかも知れないが、暗殺を企てるような奴の安全を考慮する余裕は、あたし達にはない。いけないことをしようとしているのだから、其れは止めないと。




