夜の散歩 12
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あたしの背中を、父ちゃんが軽く叩く。
「行くぞ。俺たちの仕事はあの人を狙う奴の排除だ。黒服は鼠の対処。この有様じゃここに居る兵士は使えない。少ししんどいが、腕を見せるぞ」
父ちゃんが、楽しそうに言った。この人はこの時代だから、ちゃんと生きていけるけど、現代日本だったら、一市民としては生きていけない性格をしている。ゲームの中では、内戦をあおり、隣国の侵略戦争を誘発する。大変危ない人だ。
過去のことは話してくれたことはなかったけれど、あたしはゲームのオープニングシーンを見ていたので知っている。デニム伯爵家の私兵で、デニム伯爵夫人の護衛兵を遣っていた。其れも、相当腕の立つ戦士だって言う設定だった。ほんとにこの人の計画で、デニム伯爵令嬢と入れ替わって、色々悪さをしたのか疑わしい。何しろ、脳筋なのだ。
見た目は怖いけど、あたしにはあまあまだし。鍛錬するときは厳しいけど、命が掛かっていることだから当然だし。基本的に腹黒ではない。
あたしは後ろに誰かいたんじゃないかと思っている。そうでなきゃこんなややこしい事、出来るわけないと思う。もっとも、あたしが前世の記憶を取り戻したときは、相当悪い顔をしていたことは否定しないけどね。伯爵家を憎んでいたと、あたしは思っている。
「どうするの?」
「俺なら、ご婦人を殺すのには弓を使う。遠くから狙撃して、この混乱に乗じてとんずらする。領民に紛れて、おそうって言う手もあるが、遣って奴は間違いなく殺される。近接戦は、分が悪い」
この街では、伯爵夫人の人気はかなり高い。側に居る領民が人の壁になる上に、護衛もそれなりに手練れなので、目的を達成するまでに取り押さえられるのが関の山って事である。しかも、火事を起こしてから、あたしらが到着したのは、連中の想定より早かったはずで、準備する時間はあまりなかったはず。
「俺なら、必ずデニム伯爵夫人が顔を出す、かり出されている医師が治療をしている教会前広場で、狙撃の準備をするね。たぶん狙撃して、逃走できる場所は他にないだろうさ」
「てことはそいつを黙らせれば、あの人の命を狙える機会はこの段階ではないって事ね」
父ちゃんは、あたしの言葉に頷いた。
「それ以外は、接近しなきゃ成らないから、周りに領民がいるところでは、何も出来ないだろうさ。やれたとしても、自爆する以外にない」
ちなみに、この世界には火薬みたいな物はまだ存在しては居ない。そう言う意味では、この世界は安全だと言えるかも知れない。




