夜の散歩 11
読んでくれてありがとう。
「まずは私がこちらに居ることを、領民に知らせて、安心させることが先決です」
「具申致します。しかし、其れは奥様が危険になるのではないでしょうか」
黒い胴着を着込んで、顔を黒い布で隠した、リントンさんがデニム伯爵令嬢に反対意見を言った。使用人が、主人に対して反対意見を言うことが、この封建的な世界で出来る関係なら。それなら、あたしとしても期待しちゃう。其れが当たり前なら良いのだけど・・・。
「確かに私の所在を明らかにすることは、鼠相手にとっては不味いかも知れないわね。でも、この状況で、私が責任を持って、領民の命と財産を守る姿勢を見せることで、要らぬ不信を防げるでしょう。本当に怖いのは、民の信頼を失うことだわ」
「・・・」
「それに、私には頼もしい貴方達が居るのですもの。何の心配もしていないわ」
デニム伯爵夫人は、まるで少女のような笑顔を浮かべて言い切った。
あたしは彼女に顔をまじまじと見詰めた。貴族のご令嬢は、みんなこんな感じ何だったらすごいのだけれど、たぶんこの人が特別なんだろうなと思う。これだけ腹の据わっている人は初めてかも知れない。前世にはこんな政治家見たことない。興味も無かったけれど、命がけで政治をしている人なんか居ないのは事実だと思う。
だからランプ亭の主人みたいに、協力する人も出てくるのかも知れない。ゲームの知識とはだいぶイメージが違う。デニム伯爵夫人は、何かに怯えているスチルの姿しか記憶になかった。この人のスチルは、全部で二枚しか見ていない。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢が誘拐されたときの物と、ストーリーの後半に起きる隣国との戦争で、屋敷とともに火の中に消えて行く姿だけである。デニム領が落ちることで、王都への道が開いてしまい。それからは、戦火のもとで、攻略対象との恋愛をしながらの、生き残るためのストーリーが展開して行くのである。
あたし的には、戦争なんてとんでもないことなので、出来ればそんなことは避けたいと思っている。どうしたらそうならないように出来るかなんて、単なる不良だったあたしには解らないけれど、いっぱい人が死ぬのは嫌なのだ。
「とりあえず街の中心街に向かいますよ。その際に、私が皆さんを助けに来たことを知らせましょう」
デニム伯爵夫人は、率先して歩き出した。他の騎兵さん達が、盾を掲げて彼女を守るように進んで行く。




