夜の散歩 10
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あたしは報告をする、小隊長の顔をまじまじと見詰めた。右の額から頬に掛けて、かなり赤くなっている。結構酷い火傷だと思う。放っておいたら大変なことになりそうだと思う。前世で、火傷を馬鹿にして、だいぶ痛い思いをしたことがあるから、早く手当てをしなければと思う。
「貴方、報告を終えたらすぐに、お医者様に診て貰いなさい」
あたしは声の報告が終わるのを見計らって、声を掛けた。こんなところで、報告をする前にちゃんと冷やさなければだめだ。ましてや、顔なのだ。それだけでもやばすぎる。元不良でもそれぐらいは解る。
「あ、マリア様。此れは大したことではありません。すぐに任務に戻ります」
あ、この人あたしのことデニム伯爵令嬢と間違ってる。ゲームでは入れ替わっていたくらいだから、普通に他人には見分けが付かないだろうなと思う。
「だめです。このままでは大変なことになるかも知れません。早くお医者様に治療をして貰ってください」
「しかし」
小隊長さんが逡巡するそぶりを見せる。
「この子が言うのです、貴方はすぐに診て貰いなさい。此れは命令です」
伯爵夫人が言ってくれる。
「よく言ってくれましたね。あれは事態が収拾するまで医者に診せないでしょう。其れが命令でもなければ、言うことは聴かないわ」
「はっ。ただいまより医師に治療を受けて参ります」
小隊長さんは、あたしに対しても回礼をすると、踵を返して走り出した。
「ありがとうございます。マリア様、隊長は逃げ遅れてた、領民を助け出すときに、怪我をしたんです。俺たちが言っても聴いてくれなくて」
一緒に居た兵士さんが、あたしに言った。こんな時なのに、この人の顔は笑っていた。あの小隊長は好かれているのかも知れない。
「貴方、マリアに間違われるのね」
なぜかこの人は少し嬉しそうにしながら、町の中央に向かって歩いて行く。一緒にやって来た、騎兵も馬から下りて、手頃なところに馬をつないだ。そして、馬車の荷物置き場から、盾をおのおの持ちだした。当然のことだけど、あたしや父ちゃんは自分の弓と矢を持った。今回は毒袋も腰に下げる。場合によっては使うつもりだ。死ぬような毒じゃない。少し痺れて、動けなくなる程度である。
だいぶ長い散歩になってますが、まだ続きます。