探偵の真似事 4
「姫様のことを信じる事をお勧めしますよ」
あたしの後ろで、リントンさんが声を掛けてきた。どうでも良いけれど、全く足音が聞こえなかった。
正直怖い。あたしは結構耳も良いし、目も良かったから。いくら話に集中していたからと言って、誰かに背中を取られるなんて、あり得ない。自信喪失だよ。
あたしの実感としては、リントンさんが突然現れた気がするほどだ。こういうのを穏行の術って言うのかな。昔見た忍者漫画を思い出した。この人が、あたしを殺そうと思ったら、簡単にできてしまうって事だよね。本当に怖いわ。
「怖いから、ちゃんと足音を立てて歩いてくれないかな。本当に心臓に悪いからさ」
あたしが文句を言うと、リントンさんは実に楽しそうに笑った。
「私もまだまだ捨てた物ではありませんな。まだ錆付いては居なかったようで」
くっくっと笑い声を立てる。この世界の執事は、皆こんな奴ばっかり何だろうか。あたしはリントンさんの顔を睨み付ける。楽しそうに笑う、この顔が気に入らない。不良時代なら、殴ってしまっているかも知れない。実力差からいったら、この人を殴るなんて出来ないだろうけれど。
「こう見えて、姫様は正直で気持ちの真っ直ぐな方ですから、貴方達を助けるために、このように行動をなさる方です。信用して話した方が、貴方と家族にとって、利益になると思いますよ」
リントンさんが、実に柔和な笑顔を作り出すのを、あたしは目撃した。この人の笑顔は、色々其れを使い分けている。何だか怖い人だなって思う。この人が、昔は父ちゃんの友達だったなんて、信じられない。
「如何かな。私を信じて話してはくれないかしら。同じ猟師仲間なんだもの、信用してくれても良いと思うわよ」
「……。あんたを信じても良いのか」
マシュー君の長い逡巡の間。あたしは、固いパンと干し肉のサンドイッチを、塩辛いスープで、胃袋に流し込む。決して美味しくはなかったけれど。取りあえず腹減り状態を脱する事が出来た。
大夫行儀が悪い喰い方だったけれど、所詮は平民の育ちの悪い娘のすることだ。大目に見て貰うしかない。もしも、マリアの悪い噂が立ったら御免なさいするしか無いだろう。
「悪いようにはしないからさ。取りあえず信じてくれないかな」
マシュー君は、どうやらあたしを信じてくれる事にしたらしい。あたしの父ちゃんは、今ではデニム家の私兵団の小隊長を勤めているけれど、それ以前は腕の立つ狩人だった。いわば仲間だ。其れを信じなくて、如何するって言うことだよね。
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