なんちゃって姫様は我慢できない 15
正直腹が減った。兎に角この執務室から出たい。この堂々巡りから逃げ出して、兎に角何でも良いから何か喰いたい。此奴らには食事を用意するっていう知恵が働かないのだろうか。其れよりも大事な事柄があるから、後回しに似てしまっているのだろう。腹が減っているときには、まともな考えなんか出ないと思う。
この大人の事情あふれる場所から、あたしは逃げ出す事に決めた。あたしの手で、マシュー君に事情を聞き出すのだ。話してくれるかは疑問だけれど、此所にこうしているよりは物事が動くだろう。
「リントンさん。私はマシューとは無しが為たいのだけれど。もしかすると、私なら話を聞けるかも知れないわよ」
「姫様が取り調べをなさるのですか」
「色々と誤解があったのかも知れないのだけれど。私は彼の家族を助けに言ったことは、信じて貰えるのではないかしら。だから、素直に話してくれるかも知れないわ。それにこう言っては何だけど、罪を減じる代わりに捜査に協力させる事も出来ると思うのよ」
前世のテレビドラマで見たことにある、司法取引について、簡単に説明してみる。リントンさんが、その事が有効な事だと思ってくれれば良いのだけれど。あたしはドキドキしながら説明をした。
色々と穴のある説明だけれど、リントンさんを納得させる事が出来たみたい。リントンさんが頷いた。
「本当に姫様は、面白い事を思いつくのですね。其れは遣ってみても良いかもしれませんね。兎に角残り二人を見付けるのが先決でしょうから」
これで少なくとも、マシュー君の罪を軽くする事が出来る。何処まで軽く出来るかは、解らないけれど。少なくとも極刑には成らないだろう。こんないい男を簡単に、あの世に鞍替えさせたくは無かった。
リントンさんが、姫様ごっこを続けている内に、この事件を片付けてしまいたい。そして何でも良いから何か喰わして欲しい。あたしは腹が減って仕方が無いのだ。
「では一緒に彼の元に向かいましょうか」
リントンさんが和やかに笑いながら、あたしに言ってくる。
「しかし……」
ターラント男爵が、不服そうに何か言いそうに成ったところで、リントンさんの視線が其れを押しとどめた。その視線はあたしの方に向けられていなかったのだけれど、震え上がりそうなほど冷たい物だった。
あたしの方に向けられる物と、ターラント男爵に向けられる物がこれほど落差が大きい。あたし本人にとっては、本当に訳が解らないけれど。今の処は、実に有難い。
読んでくれてありがとう。




