なんちゃって姫様は我慢できない 3
狩猟ギルドのトイレの扉を、後ろ手に閉めると、安心の溜息を付く。間に合って良かった、この年でお漏らしなんか経験したくない。危なかった。
ポーリーナ・ルイス女史が、心配そうにあたしを眺めている。彼女の側には、密猟者達の家族が怯えたように、立ちすくんでいる。子供達は抱き合って泣いていた。
「トイレ、ありがとう」
あたしは一声掛けて、ロビーを通って、戻るために扉を開けた。その扉の先には、あたしがサーコートで引っ張り出してしまった、古強者達が思い思いに立ち話をしていた。その中心には、馬を下りたリントンさんが此方に向かって来る。表情は笑顔を浮かべていた。
自警団の若い衆は、各々五月雨式にここから離れていく。何とか問題なく、撤収させる事が出来たみたい。次はお年寄り達に、お家に帰って貰わなければ行けないかな。一言お礼を言っておきたい処だけれど。その前に、リントンさんに、文句の一つも言っておきたいかな。これって騙しよね。文句を言って良いと思うの。
あたしは何時になく真面目な表情を作って、リントンさんに向かって歩き出す。どう言う風に文句を言おうか、考え物である。
何しろ相手は、あのリントンさんである。頭のできに関しては、間違いなく上なのだ。長年奥様の補佐を務めていた上に、いわゆる情報部の筆頭みたいな立場らしいから。所詮は初心者メイドの立場では、相手にも成らないだろう。
「大変良く出来ました。私はこれほど綺麗に治められるとは思っていませんでした」
あたしに対して、実に綺麗な挨拶をしてくる。執事としてのリントンさんが、奥様にする礼の取り方と殆ど同じ仕草をしてくれる。この仕草は、平民のメイドに対する物では無い。どういう事なのか、あたしにはさっぱり解らない。本当は解りたくも無い事だ。
「まだサーコートの効力は継続しているのよね」
「効力とは?」
リントンさんはとぼけた顔を為て見せた。
「このサーコートは、恐らく緊急時の予備兵の招集の意味があるのでは無いかしら。だから、私にこのコートを着るように言った。そのお陰で、こんないに大事になってしまったわ。勿論、私一人で動いていたら、間に合わなかったかも知れないから。その事に対しては、お礼を言わせて貰います。でもね、ちゃんと説明して欲しかったわ」
「このサーコートは、あくまでも只の上着でしか在りませんよ。予備兵の招集のために、奥様が小さい頃来ていた物だというにすぎません。そう言った決まりが在った訳ではありませんよ。只、貴方は本当に奥様に良く似ていらっしゃる。だから、当時を知っている者達が、自ら動いてくれたにすぎません」
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