なんちゃって姫様は我慢できない
モブ顔団長の頬が緩んだ。いわゆる苦笑である。十三歳の子供に凄まれても、笑うしか無いのだろう。其れは判るのだけれど、其れって不敬な事では無いかな。何しろ、今のあたしはマリアと名乗っているのだから。
「良いかい。あんたの命は風前の灯火だって事が解んないかな。私が押さえているから、リントンが命令を出さないで居る。其れが解らないのですか。あまり長い時間が掛かるようだと、しびれを切らしたリントンが前に出てくるかも知れませんよ」
勿論これは嘘である。たんなるメイドが、リントンさんを押さえる事なんか出来ない。他聞マリアでも無理だと思う。彼を押さえる事が出来るのは、奥様だけだ。
隣に立っている、ターラント男爵がビックリしたように、あたしの顔を見詰めてくる。そんな顔を為ないで欲しい。嘘がばれるじゃ無いか。
本当に、モブ顔団長の命に関しては、ヤバくなっていると思う。あの怖いことを一手に引き受けている、リントンさんがあたしに、このサーコートを着せた事には理由が無いといけないから。あたしの事が心配だったからとは思えない以上。これを着せて街の中を走り回らせる事が目的で。こう言う大事にするのが目的としか考えられない。だったら、こうなる事は必然で、もしかすると、この際だから自警団を、本当に解散させる積りなのかも知れない。
そう成ると、本格的な争いはリントンさんにとって、都合の良い事なのかも知れなかった。どうでも良いけれど、そんなめんどい事に巻き込まないで欲しい。
あたしはトイレに行きたいし。お昼ご飯を食べたいのだ。
後方のお爺さん達が、身じろいだ気がした。それに会わせるように、あたしの周りを囲むように、護衛をお願いしたお爺さん達が、それとなく構えを取る気配がする。ヤバすぎる。
「わ、解りました。兎に角今の処は引かせていただきます」
モブ顔団長は漸く空気が変わった事に気が付いたらしい。慌てて、大夫数が減っている自警団の中に逃げ込むように、走り出した。最初から聞き分けが良ければ、怖い思いを為なくて済むのに。
ここに居る全員が、ほぼ同時に溜息を付いていた。あたしなんか、思わず座り込んでしまう。何しろ、こんな緊迫した状態に立たされるのは、前世を含めても初めてなのだ。本当に勘弁して欲しい。
「旦那様よう御座いましたね」
ターラント男爵と、その執事のクリスが抱き合っていた。今までの緊張状態から、解放されてホッとしたのだろう。
さて、あたしには当座の問題が残されている。兎に角トイレに行かないと、大変なことに成ってしまう。急いで、方法に見えている狩猟ギルドの建物に走り出した。
リントンさんが、馬から下りて、こちらに向かっているけれど。あたしにはそんなのどうでも良いことでしか無い。今は、一階にあるトイレに駆け込むことが先決なのだ。
読んでくれてありがとう。




