なんちゃって姫様 21
モブ顔を少し歪めて、あたしの方を見詰めていた。いったいこの男は何を考えているのだろう。いきなり周りに祭り上げられて、舞い上がってしまっていた割には、今の表情が気に入らない。前世の頃なら、間違いなくワンパン入れているところだ。
何か勘違いしているのかも知れない。自警団だからといって、特別な権力を持っている訳では無いのに。偉くなったと思い上がっているのかも知れない。後で誰かに叩潰されれば良い。きっとリントンさんが遣ってくれるに違いない。
「さて、どうやら皆の気持ちはお家に帰る事に、傾いてきたみたいね。貴方は如何しますの」
あたしは声の指向性を、目の前のモブ顔に向けた。タイプではないし、話していて楽しい相手ではないけれど。彼にも納得して、お家に帰って貰わなければいけない。
「いくら粘っても、貴方の要求は受け入れないことぐらい、解りそうな物ですわ。でないと、ギルドの存続に関わってきてしまいますからね。兎に角今の処は、お引きなさいね」
あたしの感情を隠して、穏やかに笑って見せた。悪役令嬢マリアが相手を手厳しく、痛めつけるときにする表情である。因みにこの時の背景は、闇夜の月だった。
今は現実だから、あたしの背景には、かなり大勢の武装したお爺ちゃん達が並んで見えているだろう。ゲームのスチルより、よっぽど怖いのでは無かろうか。
あたしは関係の無い第三者視点で、この光景を眺めていたかった。さぞかし映える映像だったのでは無いだろうか。こんな時は当事者になんか成る物では無い。色々がまんしなければ行けない立場になってしまったのだから。
これが終わるまで、あたしは食べ物を食べることも出来ないし。トイレにも行くことも出来ないのだから。流石にこんな処で、お漏らしなんか出来るわけもないし。衆人環視の中で、そんな事に成ったら、一寸やっていけない。
ここに居る人達は、皆忍耐力がある。正直、こんなに精神力を削られるような場面で、問題も無く立っていられるのは大した者だと思う。皆いい加減に、お家に帰ろうよ。
「でも、ハイそうですかと言って帰るわけにも行かないのも、ご理解いただける物と思いますが」
まだモブ顔の団長が、何か言っている。段々あたしの中で、我慢が出来なくなってきた。あたしはお腹がすいているのだ。普通の人間だから、生理現象だって、真面にあるのだ。
「話は後だって言ってるだろうが。四の五の言っていないで、大人しくママの処へお帰りって、優しく言っている内に、言うことを聞きな」
駄目だ。あたしの我慢の限界だ。思わず怒鳴りつけてしまった。マリアに、後で謝ろう。絶対変な噂が立つに違いない。まあ、声が響かないように音程を極端に下げたから、皆には聞こえていないよね。まあ、取ってもドスが利いているだろうけれど。もう気にしていられない。
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