なんちゃって姫様 16
ターラント男爵とクリス執事の視線が、あたしに突き刺さってくる。勿論彼らは、あたしがナーラダのリコだって事を知っているから。マリアの名前を騙っている事に気付いている。其れがどう意味を持っているか、大変不敬な事だと思っているのだろう。
「リコさん。其れってヤバいですよ」
と、クリスさんが囁いてくる。
「良いから黙って話を合わせておいてよ。このままだと大変な事に成るかも知れないのだから。嘘も方便って言うじゃ無いの」
「そう言えば、マリア様と顔立ちが似ていたのでしたね。本当に、君は良い度胸をしているね」
「今更でしょ。だって、後ろのお爺さん達は、あたしのことを姫様って慕っているのよ。他聞、マリア様と勘違いしているのだと思うわ。だから、このまま言い張ってしまえば。マリア様が、自らこの事件を解決に出てきたって事にできるんじゃないかな。あたしが言うより、マリア様が言っている事の方が、言う事を聞いてくれるのじゃ無いかと思うのよ」
「そう言えば後ろの連中の中に、デニム家の黒犬が居るようですが、私はどうなっても知りませんよ。兎に角貴方の計画の責任は取りませんからね」
ターラント男爵が、矢張り小さな声で、あたしに対して責任は取らない宣言をする。当てにはしていないから良いのだけれど。熟々尊敬の出来ない大人だと思う。この人が、頼りに成らないのは、今に始まった訳では無いので、今更驚いたりしないけれど。本当に嫌な大人だと思う。こんな人が、狩猟ギルドの長なのは大変不幸な事だと思う。
元々あたしは、マリアの影武者だから、彼女の振りを為たからと言って、何か文句を言われるような立場でも無い。本当は、あたしだってデニム家の令嬢でも在るのだから。咎められるような事も無いのだから……。
「兎に角あたしに話を合わせてくれれば、悪い様にはしないから、協力して欲しいですわ」
少しずつ悪役令嬢マリアに近づける。本当に大人達を説得で来るかは、遣ってみなければ解らないのだけれど。遣らなければ失敗すら出来ないのだから、さくらいろのきみに・・・のマリアに成らなければ、自警団の若い衆を納得させて、大人しく解散させることが出来ないかも知れないのだから。
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