なんちゃって姫様 14
ドンという地を叩く音が響き渡る。後ろにいる古強者達が、獲物で大地を叩いたのだろう。それに伴って、後ろの方からとんでもなく重たい重圧が、あたし達の背中を押してくる。
後ろを振り返ると、古強者達の中央に馬に乗った、リントンさんがあたしと良く似た、サーコートを纏っていた。いつの間に、自警団の包囲をかいくぐって入り込んできたのだろう。
あたしは、何だか心配に成ってきた。あの人が、どのような考えを持っているか解らない以上。あんまり当てには出来ない。最悪、自警団に対して、突撃を命じるかも知れないのだから。
不気味な影響力を持った人だ。どちらかと言えば、表だった権力者には見えないけれど。あたしが纏っている、サーコートを持ち出したのは、あの人だ。もしかすると、予備兵力を動員する事の出来る立場なのかも知れない。ならば、今のお爺ちゃん達に、命令を出す事が出来るのかも知れなかった。其れを、さっきの音が証明している気がする。
何とか音便に、自警団には解散して欲しい。でないと、血の雨が降るかも知れない。だって、まちまちの武具とは言っても、このお年寄り達は戦闘訓練を施された部隊にしか見えないのだから。其れが、後方で圧を駆けてきているのだ。
あの人達が、戦う積りで動き出せば、どれほど悲惨な事が起こるか、想像する事は簡単だろう。この時代は、平民の命などは軽く扱われる物だ。一度、戦場となれば人間の命はゴミ屑のように扱われる。其れは、前世の時でも変わらない。人の命が重く扱われるのは、あくまでも平和な時に限るのだから。
隣には責任在る大人が居るのに、何故か安心できない気がする。ターラント男爵の顔色や、声音を聞く限り。間違いをしてしまいそうな気がする。そうなれば、後ろから圧を掛けているリントンさんが、戦力を動かすかも知れない。半年前の事件の時は、指揮を執っているのは奥様だったので、思いの外安心できたのだけれど。今回は、指揮を執っているのが誰なのか解らない感じが為て、不安で仕方が無かった。
この有り様を見る限り、自警団にも責任を取るように人は居ないし。あたしの方にも、責任を持って指揮を執る人が見えない。どちらも顔が無かった。
最悪、何だか解らないうちに、衝突したら悲惨なことになるに違いない。兎に角、こちら側だけでも顔の在る集団のように振る舞わなければ、いつの間にか殺し合いに発展してしまうかも知れない。
悪役令嬢マリア・ド・デニムならば、こちら側の司令官としては相応しいかも知れない。
「いつまで待たせるのですか。あなた方の中で、話の出来る者を及びなさい。何時までも、ここで睨み合いをしているわけにはいかないのですよ」
「本当にマリア様なので」
「この顔を見たことのある者は居ないのですか。早く責任の取れる者を呼びなさい」
あたしは、腹に力を入れて言葉を紡いだ。後方から掛かってくる圧力が怖すぎる。いつ何時、後方に控えている人達が向かってくるか知れないのだ。
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