なんちゃって姫様 11
護衛をお願いした四人は、他の連中に対して、何処か誇らしそうに胸を張っていた。何故そんなに誇らしそうなのか、あたしには解らないのだけれど。こんな時に、その事を聞く訳にも行かないので、取りあえず黙っている事にする。
孫の居るお爺さんが、適当に見繕った布きれを槍に結びつけて、高々と掲げながら、あたしの右隣を歩いている。簡易的ではあるけれど、使者の印なのだそうだ。本来なら、何処から見ても解るように、決められた旗があるらしいのだけれど。今は持ち合わせがないので、この布切れで間に合わせる事にしたらしい。
「最もこう言う作法について、彼奴らが知っているかは解りませんがね。ここの所、本当に平和で戦争が起きる気配もありませんでしたからな」
皮鎧に鉄兜で武装した、自警団の中に孫の居るお爺さんが、笑いながら言った。
「其れがここ半年ばかり、きな臭い事ばかり起きますな。また戦が起きるような事に成らなければ良いのですが」
「そんなことには成らないわ。そうならないために、私は今こうしているのだから」
思わず本音が漏れた。だってマリアを助けたのも、こうしてなんちゃって御嬢様を遣っているのも、乙女ゲームさくらいろのきみに・・・のシナリオ通りに、物事が進まないようにする為なのだから。このままだと、間違いなく隣国との戦争に成る。そうなったら、あたしの故郷も含めて、悲惨な事に成ってしまう。
あたしが悪役令嬢に成ることなく。無事に生きているだけでも、シナリオが変わってくる。奥様の心が挫けなければ、隣国に簡単に負けたりしないのだ。隣国の大戦力の前に、奥様が踏み潰される様な事が無ければ、王都を蹂躙される事は起きないのだから。
大群相手に、出城で指揮を執る奥様のスチールを見るような事だけは避けなければならない。他聞二人も娘を失って、心が挫けた奥様では隣国の軍団には適わないだろうから。
ふとあたしは、今の状況は不味いのでは無いかなと思ってしまう。こんな危険なことをして、あたしがここで死んだら、今までの苦労が水の泡に成ってしまう。でも、音便に生きていたからと言って、物事の流れが良い方に成るかは解らない。何しろゲームの中には、こんな設定は無かったのだから。
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