お姉ちゃんは悪役令嬢?5
どうしよう。目の前の私が怖い。この子はドッペルゲンガーに違いない。あったら命がないって言われている恐ろしい怪物。私は誘拐されて、そのあげくに怪物に殺されるんだわ。そして、この怪物が私に成り代わって、家に帰るんだわ。
ドッペルゲンガーは、熊みたいな男からずた袋を受け取ると、薄笑いを浮かべながら、私にその汚いぼろぼろの服を押しつけてくる。正直、今身につけているワンピースも、ひどく濡れているので着ていて気持ち悪かったのだけど、だからと言ってこんな平民が着ているような、しかもかなり年季が入っている物など袖を通したくはない。
「そんな物着たくはないですわ。汚そうですし」
「じゃ良いけどね。そんなワンピースを着ている方が汚いんじゃない」
ドッペルゲンガーは、私のぬれている場所を指さしながら言った。デリカシーのかけらもない。
私の頬が熱くなってくる。粗相をしてしまったことを揶揄しているのだ。恥ずかしさが心臓を締め上げる。本当に苦しくなってくる。
それもそうだとは思うけど、あいつらはひどい連中だったのだ。私のような者を、紐で縛り付けたまま、荷馬車の荷台に放り出しっぱなしにして、何の面倒もしてはくれなかったのだから。我慢できなかったとしても、馬鹿にされる様な事ではない。
誘拐犯の2人組を縛り上げていた、若い方の男が、自分の水袋を私に渡してくれた。手で飲むように仕向けてくれる。ドッペルゲンガーとは全然違う。やっぱり人間は優しい。
久しぶりに飲む水はおいしかった。少しワインの臭いがするけれども、かなり薄められているらしいので、酔ってしまう事は無いだろう。体に力がわいてくるような気がする。
「着替えた方が良いだろう。でないと風邪を引くぞ」
と、彼が言ってくれた。
私は嫌だけど、ぼろを着てやることにする。