なんちゃって姫様 10
途端に辺りが騒がしくなる。皆我こそが護衛には相応しいって言ってくれている。決して安全では、無いのは判っていると思うのに、本気で行ってくれる積りなのだ。本当にこの人達を魅了してやまない、奥様の偉大さが解る。
この皆の忠誠心は、奥様に対する物だ。決して、あたしに対する物では無い。あたしは何だか申し訳なくなってきた。だからと言って、ここで辞めるわけにも行かない。始めちゃった以上、何とか穏便な形にして終わらせなければいけない。ここで放り出したら、どうなるか解った物では無いのだから。勿論暴動までは発展しないだろうけれど、怪我人ぐらいは出るかも知れない。そう言う責任の取りようのないことは勘弁してほしいものだ。
本当にここに、チート能力を持った転生者は、居ないのかしら。あたしが居るのだから、他に能力の高い誰か転生していないのだろうか。普通の不良には荷が重すぎる。
護衛の人は誰でも良いから、指名してしまおう。そうすることで、話が進むに違いない。
「先ずは貴方。一緒に来て下さる」
あたしは此れまで話したことのある、彫り物のお爺ちゃんに声を掛けた。
彫り物のお爺ちゃんは、実に嬉しそうな顔を為た。そして、他の皆に対して、ガッツポーズを為て見せた。
「ありがとう御座います。あっしには自警団にいる孫なんざ居ませんので、安心して下さい」
「何を言ってくれているんだ。御前にそんなことを言われる筋合いではないぞ。孫が居たからといって、俺の槍の冴えは少しも鈍ったりしないぞ」
お孫さんの居るお爺さんが、そんなことを言って彫り物のお爺さんの頭を小突く。どうやらここに居る人達は皆顔見知りみたいだ。お互いに気の置けない関係なのだろう。
「出も孫には槍を向けられないだろう。良かったな、どうやら姫様は同胞同士で、殺し合いはさせたくないみたいだから。だから、姫様自ら話し合いに向かうらしいし。良かったじゃないか」
「こうして出てくるとき、俺も覚悟を決めてきているのだがな」
孫の居るお爺さんは、口をへの字に曲げて言い返している。真逆こんな処で、喧嘩にはならないだろうけれど。少しムッとしていることが解る。
「では、貴方も一緒に来ていただける」
あたしは孫が居るお爺さんにも、一緒に来てくれるようにお願いする。仲良くあたしの護衛について貰った方が、良いのではないかと思ったのである。他にあと二人の古強者に追加で、あたし達の護衛について貰うことにする。
何しろ、話し合いの場にあたしは弓を持っていく訳にも逝かない。少しばかり不安だったから、護衛が欲しかった。これで、真面に話し合いが出来るだろう。
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