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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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なんちゃって姫様 8

「姫様、どうなさるんですか」

 最初に話しかけてくれた、彫り物のお爺ちゃんが声を掛けてきた。この人は、歳の割に鍛えられているみたいで、下手な兵隊さんより強そうだ。なんだかんだ言っても、あたしのことを何時も気に掛けてくれて居るみたいである。

 結局使う機会の無かった、こぶし大の石を未だに、上着に入れて持っている。かなり重いはずだけれど、其れを持っていながら気軽に歩き回って。他のお年寄り達と世間話を為ている。まるで楽しい散歩を為ているみたいだ。

「自警団の人にはお帰り頂こうと思う。あんまり長引くと、兵隊さんがやってくるかも知れないから。危険でしょ」

「遣るんですかい」

 少し期待して居るみたいな顔を為て、彫り物のお爺ちゃんが言った。

 そう言えば、あたしはこのお爺ちゃんの名前を知らなかった。あの騒ぎの真っ只中だし、名前を聞くこと忘れていた。そんな場違いなことを考えながら、あたしは皆の顔を眺める。

 皆年寄りである。武具がそろっている者は、何人も居ない。本当に色々だ。只共通しているのは、年代物の武具ではあるのだけれど。其れなりに手入れが為れていることだろうか。

「出来れば穏便に済まして貰えないでしょうか。あそこには孫が居ますんで」

 あたしの側に立っていた、古いけれど一揃えの鎧兜を着けた、お爺ちゃんが声を上げた。見ればその手には、長槍が握られている。革鎧の胸の部分には、デニム家の紋章が描かれている。もしかすると、元隊長さんだった人かな。

 その人の事を、隣に立っていた体格の良い胴着を着たお爺さんが小突いている。どうやら二人は仲の良い友達同士らしい。

 あたしの周りに集まってくれている、お年寄り達は皆何処か凄味のある人達ばかりだ。さっき、彫り物が目立つお爺ちゃんが言っていたけれど。とんでもない戦場の生き残りって言う事は、本当のことなのかも知れない。あたしはこの地方の歴史については、あまりよく学んでこなかった。だから、過去に何があったのか知らないのだけれど。後で誰かに聞こうと思う。

 其れもこれも、これから上手く事を纏めてからの話だ。其れが出来なければ、話を聞くことも出来ないのだから。

「任せなさい。私は、同胞同士での揉め事は望まないわ。だから、自警団の皆さんには、大人しくお家に帰って頂くようにしたいと思いますわ」

 あたしは、ゲームさくらいろのきみに・・・の方の、悪役令嬢マリア・ド・デニム伯爵令嬢に似せて、言葉を発した。人気のある声優さんで、ドラマなんかでも敵役を遣っている、綺麗な人のイメージ。意外なほど声音に説得力がある。普段のあたしにはない雰囲気を何とか演技する。



読んでくれてありがとう。

誤字報告ありがとう。


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