なんちゃって姫様 6
「兎に角、自警団の人達には諦めて、帰って貰わなければいけないでしょう。でないと最悪、デニム家の兵隊さんが出張ってくるかも知れないし。そう成ったら、折角これまで怪我人を出さずに済んでいるのに、どうなるか解らないでしょう」
「それはそうだが。其れを御前がすることが出来ると思っているのか」
と、ターラント男爵が言ってくる。
ターラント男爵は、大きな窓の前で、自警団と半ば武装した年寄り達が睨み合っているのを眺めている。その表情は、出来れば逃げ出したがっているように見える。立派な貴族階級の男には見えない。
今の彼のイメージは、姑息な小悪人といった感じだろうか。あたしがこの人のことを嫌いだから、そう見えるわけでは無いと思うのだけれど。少なくとも、ギルドの長が似合うとは思えなかった。
だから、貧乏ギルドの長なのかも知れないのだけれど。それでも、この人の決断に、会員の生活がかかっているのだ。あたしはなんとも言えない気持ちになった。
村では、こんなに情けない人が狩猟ギルドの長とは思っていなかった。実際、村長は確りしていたし。村の衆の生活のために、色々と工夫していた人物だ。貴族でも無い村長が、これだけしてくれているのだから、貴族階級の人はもっと確りしていると思っていたのである。あたしは、ターラント男爵のことを知らなかったから、仕方が無いのかも知れないけれど。
勿論こんな修羅場は経験したことが無い。だから、一概にターラント男爵が無能だとは言えないだろうけれど。ちゃんと責任を全うして貰いたい物だと思う。十三歳の子供が言えた義理では無いのだけれど。もっと確りして貰いたい物だ。
一応今のあたしは、マリアと言い張れば通用するかも知れない。実際、元兵隊さんにとっては姫様らしいから。あの人達に対しては、それないリに影響力があるみたいなので、何とか強気に出ることが出来るだろう。上手くすれば、自警団の若い衆を家に帰らせることが出来るかも知れない。
何より、密猟者達の家族は、ギルドの建物の中に居るのだから。そう簡単に、ギルドの中にまで入り込むことなんか出来ないはずで。いい加減見切りを付ける頃合いだと思うのだ。其れを、相手が納得するように仕向けることが出来れば、撤収させることが出来るに違いないのだ。
真面な人間なら、既に密猟者の家族はギルドが保護している形になっている以上。これ以上のことを出来るわけが無いのだ。だから、もう少しターラント男爵が確りしていてくれれば、なんの問題も無く解決されるはずなのだ。
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