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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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夜の散歩 5

読んでくれてありがとう。


 あたしと父ちゃんは馬車から降りると、後方の荷物置き場から、お互いの武器を取る。父ちゃんは強弓と専用の矢筒を取り、矢筒を腰に縛る。その矢筒には、二十本の矢が入れられている。あたしも、父ちゃんとほぼ同じ格好をする。こちらは短弓と矢筒である。まあ、今回は使う機会はないだろうけどね。

 相手の姿は、あたしは既にほそくしている。本人は旨く隠れているつもりだろうが、全く隠れていない。だいたい夜の暗闇という条件からして、あたしの前には意味を持っていない。

 相手は、黒い服で身を纏い。顔は炭で汚しており、普通の人間なら、気がつかれることもなく、通り過ぎてしまったろう。でも、夜行性の肉食獣の視力には意味が無い。

 果たして、彼は見るからに怪しいなりをしている。黒ずくめで、黒く染めた弓と矢筒。その手元には、かなり大きな樽が置かれている。毒か油のどちらかだろう。少なくとも、善意の一般人ではあり得ない。暗いので、側に居る父ちゃんでも、見えていないだろう。

「父ちゃん。こちらから百八十メートル先に、黒ずくめの男。弓と短剣で武装してる。弓はよくあるタイプのもの、恐らくは射程距離は百メートルあるかないか。ただ、奴は樽を持ってる。恐らく毒か脂じゃないかな。領都への攻撃の先兵ってとこかしら」

 あたしはそいつの方向を右の人差し指で示す。夜に狩りをするときの、いつものうごきで合図する。ちなみに夜中に狩りをするのは、村の中であたし達だけだ。夜の暗闇の中で、矢を当てることはほぼ不可能であり。夜行性の動物にとっては、鈍重で夜目の利かない人間は食い物以外の何物でも無かった。

「ご婦人に良いところを見せようじゃないか」

「判った」

「速やかに降伏することを勧める。手を上げて出てこい」

 父ちゃんが警告を怒鳴る。お約束の定型文である。勿論相手が、投稿するなんてこれっぽっちも思っていない。

「良い子だから、手を上げて出ておいで。痛くしないから」

 父ちゃんが、いつものように舌なめずりしながら、小声で呟く。

「相手は、結構腕の立つ弓兵かな。こちらとの距離を判断して、逃げられるかも知れないと考えて居るみたい。あちらの弓の射程から、だいぶ離れているから、こちらの弓も同様と考えてるみたい。とりあえず矢を二本」

 あたしの言う通りに、父ちゃんは矢を二本矢筒から引き抜く。今回は毒は塗らない。これだけギャラリーが多くちゃ色々と不味いかも知れないしね。

「一発目は警告。水平から五度上げ、右へ五度。撃て」

 父ちゃんの強弓が、弦のはじける音をさせて矢を放つ。矢は風で流されながら標的の、肩の上を通過する。あたしと父ちゃんが組むと、二百メートルまでが射程距離になる。父ちゃん手製の弓は、当てることを考えなければ、四百メートルまで矢が届く。狙撃する限界は、二百メートルまでが射程となる。そして、暗くてもあたしの目があれば、二百メートルまでが射程距離となるのだ。


 


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