ピクニック日和 5
ヘクター・リントンが、領都の主要街道にさしかかった頃。古強者達と自警団の衝突が、無かったようである。彼が想定していたことは、少なくない犠牲者が出て居ることだった。其れを理由に為て、ウエルテス・ハーケンの野郎から、ナーラダのリコを奪い取る。
何しろ彼女は、予備兵を使った挙げ句。市民に少なくない犠牲者を出したのだから、その責任を問うことが出来るだろう。勿論此方の都合で仕掛けたことであるけれど。その程度のことはどうとでも出来る。
何より古い時代を知っている者にとっては、ナーラダのリコは忠誠を誓っている姫様なのだから。自分達のよりどころとなる、国の中心となる者が、先頭を切って走る者が居ることを、知らせることが出来たのが大きい。
いま、マルーン地方の民の心が、緩やかにデニム家から離れて行きつつあった。バイシス王家の政策は、長い時間を掛けて、多くの民の中に浸透してきていた。其れは死に至る猛毒では無いけれど、マルーン王国の強みを刮ぎ落としてゆく。
マルーン王国の命脈となっている、国民の高い団結する力を弱体化させた。自発的に国を守るために、領民が武器を取ってくれるか、ヘクター・リントンは懐疑的になってしまうのだ。
実際、自警団なども、人心を不安に注せる元凶のようになってしまっていた。随分前から自警団は存在していたのだけれど。これがいつの間にか、変質してしまい。治安を守る組織とは言えない。平民にとっては、危険きわまりない暴力集団となってしまった。
彼はこの事件を機会に、自警団に自戒をさせ。ナーラダのリコを逃げられないように、デニム家に取り込んでしまおうと考えている。その為には、何人かは犠牲者が出た方が良い。出なければ可笑しい。
弱冠十三歳の小娘が、古強者達を押さえることが出来るわけが無い。彼女はこれまで、村娘を遣っていたのだから。指揮の出来る印を持っていたからと言って、真面に軍隊を動かすことなど出来るはずが無いのだから。
ヘクター・リントンは、街の様子が落着いていることに、嫌な感じを受けながら、恐らくは逃げ込んで居るであろう。狩猟ギルドの有る場所へ馬首を向けた。何となく出てきたことが、無駄に終わろうとしている予感が為ていた。
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