ピクニック日和 4
我らが姫様の結婚以来、この国に多くの良くないことが起こったが、その一つが姫様の妊娠だった。其れは国にとっては、喜ばしいことに違いなかったのだけれど。残念なことに、生まれてきた赤ん坊は双子だった。この辺りの迷信に、双子は不吉の印というのがある。そして、双子を産んだ母親は獣腹と呼ばれて、蔑まれる事になる。
どのみちこの時代には、よほどの奇跡が無ければ双子が無事に育つことは希で、出産の時に母体も保たないことが常識となっていた。そのような事情がありながら、双子が無事に生まれ。母親も無事だった。其れは目出度くもあり、目出度くも無い問題を先代は引き受けることになった。
先代は、己が孫のどちらかを捨てることを決断した。このままでは娘が、獣腹と蔑まれるだけでは無い。呪われた一族として、排斥されることを恐れたのである。なんと言っても、当時の国王は、デニム家の力を刮ぎ落とす理由を作り出すことを考えていた。こちら側としては、僅かでも攻撃の材料を提供したくは無かった。
今のヘクター・リントンに言わせれば、なんと愚かなことを為たのだろうか。そう思うけれど、先代の立場に立ったのなら、其れも仕方の無いことなのかも知れない。
どのみち双子が五体満足で、産まれることはなかったのだから。確かに双子の片割れには、何処か異常なところがあった。その赤ん坊は、闇の中でも目が見えていると、乳母をしていた者が証言していた。最初は迷信を信じている者の証言と思われていたが、どうも信憑性が出てくると、先代の決断が確かな物となった。
かくして、国でも五本の指に入る優秀な戦士に、その子供を捨てさせる事で、彼が軍務から離れる結果を誘発する羽目になった。図らずも国王の思惑通り。戦力と大事な姫を失うこととなった。
そして、今アリス姫のサーコートを着た娘が、街に起ころうとしているいざこざの真っ只中にいる。勿論彼女の行動によっては、更に問題が大きくなるかも知れない。それ出も自分から、問題の真っ只中に飛び込む気概は、幼かったときのアリス姫を思わせて痛快に思われた。
この機会に、ナーラダのリコが何処まで事態を収めることが出来るのか試すことが出来る。何しろ、かっては五本の指に数えられていた、護衛兵に育てられた娘である。持ち前の胆力を見る良い機会でもある。
只、十三歳の娘に、古強者達をまとめ上げることが出来るとは、思っていないから、ヘクター・リントンがこうして予備兵達の指揮を執るために、出陣してきたのである。事態をまとめ上げた後に、大事な姫様をハーケンの野郎から奪い返したいと思っている。
訳ありとはいえ、デニムの娘で有ることに間違いは無いのだ。彼女が奥様の幼かった頃のように、お転婆で自分で問題を解決するために、自ら動くところは、ヘクター・リントンの好むところである。
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