ピクニック日和 2
街の空気はかなり異様な物になっている。自警団が動き回り、騒ぎを起こしながら、兎狩りを為ているからである。その上、古い決まり事である王女のサーコートを着た娘が、現役を退いた元国軍から成る予備兵を徴用為、動かしている。
これはヘクター・リントンの独断である。私兵団を動かすわけに行かなかった彼は、予備として領都に住まう古強者達を使うことに為たのである。彼らなら、サーコートに有る刺繍の意味がわかる。この国の王女が、街で起こっている騒ぎを収めるために、単身街に出てきたことに気付くはず。
勿論その決まり事を、知っている者は少ない。それでも、彼より上の年代の者達なら、率先して彼女に協力するだろう。何しろ、そのサーコートを着ているデニムの娘は、多少難はある物の間違いなく敬愛してやまない王女なのだから。連中は喜んで命をかけてくれるに違いない。
マルーン地方は、攻めやすい地形であったけれども。そこに住まう人々は、簡単に支配されるような者達では無かった。進撃してくる軍隊の後方から、これまで一般庶民だと思っていた者が。遊撃戦を展開してくるのだ。支配し統治の難しい、国民性を誇っていたのである。
アリス・ド・デニム王女と呼ばれていた頃、彼女は率先して領地内のいざこざを治めるために、僅かな手勢を引き連れて駆け回っていた。話し合いや力を使いながら、問題を可決していたのである。王女自らお出ましになって、平民の問題を解決してくれる。だからこそ、平民達も彼女のことを敬愛したのである。
其れが、アリス・ド・デニム王女が十五歳の時に、隣国との戦争が勃発した。其れは一方的な侵略戦争に他ならないことで、国力差でどうにも成らない物だった。
その当時、同盟関係にあった国に援軍を求めた。その際に使者として向かったのが、アリス・ド・デニム王女と護衛として、ヘクター・リントンとウエルテス・ハーケン他三名の騎士達だった。それだけでも大変な冒険であったのだけれど。
援軍を派遣して貰うための、高度な政治的駆け引きを弱冠十五歳の姫君には辛い物であった。当時の彼も、今のように多くの情報を握っては居なかった。そこに居たのは、全員がひよっこと言って差し支えないほど、お人好しばかりだった。所詮は武人ばかりだったのである。
戦のまっただ中で、そう言った駆引きの出来る人間を、派遣することが出来なかった。何よりも、同盟を為ていた国の王は、これを好機ととらえていたのである。どのみち、援軍は派遣しなければならないのにもかかわらず。とんでもない条件を出してきたのである。
その条件というのは、国の緩やかな併合だった。勿論これは、条約違反である。何故なら、同盟関係だったからである。その条約には、マルーン王国が敵に迫られたなら、速やかに殿軍を出すことが求められていた。だが、アリス王女を見下し。国を滅ぼされるか、併合されるかの二者択一を迫ってきたのである。
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