一寸した冒険 24
「済みません姫様。また、ご迷惑をおかけしてしまいます」
おばあちゃんが、あたしの横を通過するのを眺めながら、後から集まってくる若い衆達を牽制する。何とか上手く牽制できて居るらしく、連中の足が止まる。殿を勤めても良いのだけれど、イラスのリオさんに殿を指せるわけにも行かない。殿はどんなときにも、一番危険な場所だったはず。
少なくとも、まだあたしの方が強いから、この中では適任なのかな。出来れば、あたしも殿は遣りたくはないのだけれど。このメンバーの中なら、仕方が無いのかな。一応あたしは十三歳の女の子なんですけれど。一寸無きかいかも知れない。
おばあちゃんの姿が、路地裏に入り込むと。突然、おばあちゃんの悲鳴が聞こえてくる。前の方にも自警団が居たのかも知れない。あたしは慌てて、走る足を速める。そして、腰に下げている矢筒から矢を取り出した。もしかすると、重い決断が必要かも知れない。
「ぶっ殺す」
思わず前世で使っていた言葉が、口を突いて出た。この国の人間には、解らない言葉だから問題なし。貴族令嬢の言葉としては、大夫はしたない言葉であることは重々承知である。
路地裏から、顔を出したのは彫り物のお爺ちゃんだった。今は、着ていた服を脱いでいるので、実に見事な筋肉美を為ていることが解る。年寄りの身体では無い。そして、手にはその辺りで拾ったのだろうか、野球のボールくらいの石が握られている。石を持っていない手には、他聞着ていた服を風呂敷のように為て、かなりの数の石が入れられている。
「探しましたよ、姫様。一寸待っててくださいって言いましたよね」
「あんたら本気」
「殿はあっしらにお任せ下さい」
路地裏から、まちまちの格好を為てお年寄りが出てくる。ちゃんと鎧を着ている者も居るし、部分鎧だけや麻の服に槍を持っている者も居る。そのどれも、大変古い具足だ。
「久しぶりの姫様公認の戦だ。野郎どもきっちり働いて見せろよ」
「爺。偉そうに噴いてんじゃねーぞ。御前はいつから隊長になったんだい」
彫り物のお爺ちゃんの檄に、誰かが茶々を入れている。そして、全員が楽しそうに笑い出す。
「一寸危ないから」
あたしは思わずそんなことを言った。そんなこと判っているとは思うのだけれど、何だかすごい年寄りだ。年取っているけれど、私兵団の兵隊さんより頼りになりそうな気がする。
「姫様ご心配には及びませんよ。俺達は、戦の生き残りでさあ。あんなちんけな餓鬼どもに、後れをとるような屑は一人も居ませんから」
「何十年ぶりの修羅場だ。俺達の姫様もいるとなれば、良いとこ見せなきゃ嘘だろう」
また大笑い。
「来るなら来い。御前らのやることには、頭にきていたんだ。尻ひっぱたいてやるから、さっさと掛かってこいや」
そんなことを言っている間に、更にお年寄り達が集まってくる。勿論、自警団の若い衆も集まってくる。此れって、かなりの大事では無いのだろうか。あたしは何だか恐ろしくなった。
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