一寸した冒険 21
「其れは辞めた方が良いと思う。あんた、間違いなく自警団の頭目に会う前に、結構殴られると思う。頭目に会うまで、意識が持たないかも知れないよ」
何しろ今の連中は、此れから出来る楽しい血祭りの期待で、胸を膨らましているの。かなりの興奮状態だと思うのだ。兎に角普段温厚な人でも、集団の中に入ってしまうと、危険な存在になってしまう。此れはいわば祭りなのである。
こう言った集団の中に、話を通そうとするなら、其れなりの覚悟が必要になると思う。前世で、争い事を一人で納めたなんていう話があるけれど。その争いを収めた人は、大分尊敬されているそうだけれど。出も、尊敬されているって事は、それだけ難しいに違いない。
「兎に角皆で逃げよう。あたしが先に出てって偵察してくるから、待っててね」
「あ、ありがとう御座います。姫様、宜しくお願いします」
ばあちゃんが、あたしの手を握って深々と頭を下げる。否定したのにまだ、このばあちゃんは姫様だって思って居るみたいだ。
あたしに殴りかかってきた、子供がばあちゃんに、何で姫様なのって聞いていた。元々ここは、マルーン王国だったんだよ、何て言っていた。
一寸待ってよ。あたしはそんな裏設定知らないぞ。さっきから姫様なんて呼ばれていたから、変だなとは思っていたのだけれど。知らない裏設定が多すぎやしませんか。
「あんた大丈夫なの。連中は怖いわよ」
と、マシュー君の恐らく奥さんが言ってくる。奥の方には、知らない女の人が、子供を抱きしめた。他聞きっと、オルテガ君の奥さんかな。
「それなら僕が見に行ってきますよ」
イラス村のリオが震えながら、あたしに言ってくる。勇気は買うけれど、その有様では無理だと思う。
「あんたは皆を見ていてあげて。時間が勿体ないからさ」
あたしは扉をそっと開けて、辺りに視線を向けた。今の処若い衆の姿は見えない。逃げ出すには今がチャンスかも知れないかな。アパートの住人が、顔を出して此方を見ている。関わり合いになりたくは無いけれど、どのようなことになるか興味はあるのだろう。
自警団の頭がどこに居るのか解らないけれど、皆を動かしてここを包囲するのには時間が掛かるだろう。なんと言っても、あくまでも街の兄ちゃん達に過ぎないのだから、軍隊みたいな動きが出来るわけが無い。そうで無いと、あたしらに明日は無い。
この辺りの通りは、かなり複雑で、大人数で動くのには不向きなのだ。上手く動けば逃げきれるに違いない。まして、あたしは連中の標的でも無い。出来れば、相手の動きが知りたいところだ。
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