一寸した冒険 20
「御免ね。あたしもギルドの会員なんだけれど、あんたの名前知らないわ」
「そう言えばお話しするのは初めてかも知れませんね。ナーラダのリコさん。僕の方はよく知っていますよ。貴方の御父様が、投げ飛ばした一件を担当したのが私なんですよ。僕はイラス村のリオと言います。貴方は有名人ですしね」
貴族の端くれなのかと思っていたけれど、この人は平民の中でもごく僅かしか居ない、読み書き計算の出来る恵まれた人らしい。恐らくその村でも裕福な家の出なのだろう。学習ができると言うだけで、かなり生活に余裕があると言うことになるから。
あたしもそう言う意味では、かなり恵まれている立場だったけれど。父ちゃんの友達だった賢者様から、時々持ってくる獲物だけで、最低限の教育を施されていたのだから。まあ、前世の記憶があるせいで、かなり難しいことまで理解できるようだったから、賢者様は面白がって教育してくれた疑いが有るのだけれど。今思えば、前世でもっと学んでおけば良かったかなとは思う。
今のあたしは、子供に為ては色々なことを思いつく面白い子でしか無い。その証拠に、このピンチを切り抜ける方法が思いつかないのだから。それでも、イラス村のリオの提案が決して上手く、行かないことだけは判る。
此れが、誰か貴族の人が交渉してくれるのなら解らないけれど。一職員の言葉を聴いてくれるかは解らない。話せば解るなんて事は絵空事でしかないと思うのだ。実際そう言って、暗殺された人も居たような気がするし。
なんか子供の発想らしくないけれど、人は性善で動かない。まして、生活が苦しくて、何処かに八つ当たりしたいと思っている者には、弱々な兄ちゃんの言葉は無力だと思うのだ。勿論あたしの言葉でも無理だろう。何しろ餓鬼が何か言っているとしか聞こえないだろうから。
只、ここに居たのではどうにも成らない。唯一の方法が、狩猟ギルドの建物に逃げ込むことだった。そうすることが出来れば、たとえ弱小ギルドとは言え、其れなりに影響力を持っている。そこの長は貴族だ。
危ない橋だけれど、自警団の若い衆に捕まらずに、ギルドの建物に逃げ込めれば、何とかなるかも知れない。あたしはぐるぐると考えを巡らせながら、気が付くと前世の言葉で考えを呟いていたらしい。
「如何したのですか」
心配そうな表情を為て、イラス村のリオがあたしの顔を覗き込んできた。どうも、気が触れたかと思ったらしい。あたしの腹を殴っていた子供が、何か怖い物を見るような目で見詰めてくる。
すいません、怖かったかな。なんかこの家族皆に、怖い者を見るような視線を向けられているのに、今気が付いた。
あ、ばあちゃんだけは未だにうるうるした目で、あたしを眺めてくれちゃっている。やっぱりこの日とぼけているに違いない。
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