一寸した冒険 19
ヤバすぎる。自警団の若い衆を倒しても、ここに居ることが知られるのは時間の問題だろう。自警団と鉢合わせになる前に、狩猟ギルドの建物に逃げ込んでしまわなければ行けなかった。
なんと言っても貴族が長を務めている、ギルドなのである。自警団といえども、迂闊に乗り込んでくることは出来ないだろう。もしもそんなことをすれば、デニム家の私兵団による戦力の投入が起こる。そうなれば、自警団の中枢に居る人間は、その責めを負うことになり。まして、その騒乱の居りに、犠牲者が出ないとも限らない。
だから、ギルドの保護下にいることを彼ら自警団に対して、ギルドの長に宣言させなければならない。その宣言だけで、密猟者達の家族の安全が保証されるわけでは無いけれど。無いよりはましなのだ。
今思えば、本当に前世の世界は平和だった。問題は色々あっとは思うけれども、今居るあたしの現実よりましなのだ。
あたしは音が立たないようにそっと、扉を閉じた。そして、耳を澄ますと他聞出てきた住人との話し声が聞こえてくる。
聞こえてきた話の内容から、この三人組のことが知られていることが解る。関わり合いになりたくないらしく。ここに住んでいるけれど、今は三人組は居ないといっていた。その家族は住んでいるけれど、今居るかどうかは解らないと言ってくれていた。
家の前で、あれだけの騒ぎを演じているのだから、知らないわけが無いのに、余し積極的に協力したくも無いのだろう。実際顔を出しても来なかったしね。
最悪なことは、このまま自警団に取り囲まれてしまうことだ。そうなったら、目撃者もいない上に、制止してくれる者に期待することも出来ない。
普段はいい人達だったとしても、そこに正義が有れば集団心理もあいまって、とんでもない乱暴なことをしてしまう。其れが抑圧された民衆のはけ口になる。いわばつるし上げである。
「私が出て行って、ここの家族はギルドが保護したことを、自警団の長達に言いに行きましょうか」
いつの間にか家の中に入ってきていた、ギルドの文菅さんが言ってきた。気の毒に顔の半分が、赤黒く晴れ上がってきている。マシュー君ったら手加減できなかったみたい。
「あんた。大丈夫」
「あまり大丈夫ではありませんが、たとえ掟を破った者の家族でも、長が保護すると言っておりますので、せめてそれくらいは行いたいと思うのです」
あたしはまじまじと、弱々文官さんを見上げた。年の頃は三十代半ばだろうか、黒い髪に少しウエーブの入った、垂れ目の可愛らしい顔立ちを為ている。お世辞にもいい男とは言えないけれど、食事くらいは付き合ってあげても良いかもしれない。
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