一寸した冒険 18
「処で、あんたらの家族はこれだけなの」
「ヴイックの嫁は、既に居なくなっていた。頭の切れる女だから、彼奴が帰ってこないのに気付いて、逃げ出したんだろう」
部屋の中で、荷物をまとめていた女の人が、あたしの質問に答えてくれる。てことは、助けなければいけない人は、ここに居る五人って事になるかな。気の毒だけど、マシュー君はギルドに突き出す形になるかもだけれど。狩猟ギルドなら、比較的穏便に済ますことが出来るだろう。
自警団は論外だし、デニム家関係に引き渡すのは、ヤバい気がするのだ。流石に首切り役人が、出てくるようなことは無いだろうけれど。何しろこの国には、真面な裁判制度が無い。だから、その時の領主の気分次第で、どんな沙汰がおりるか、見当も付かないのである。小隊の連中もいるし、どうなるか解んないからね。
それならば、それぞれのギルドの掟が決まっているだけ。まだ当てにすることが出来る。
あたしは実質被害は無かったから、狙われたのを問題に、為なければ大分罪は軽くなる。それでも、領都の側には住めないだろうけれど。首を落とされるよりはましだろう。
兎に角あたしのために、誰かの命が失われるのはいやなのだ。確かに命を狙ったのだとは思うのだけれど。実害は獲物が捕れなかっただけだしね。
あたしは逃げ出す段取りを考えながら、そっと扉を開けて、外を覗く。片っ端から、扉を叩いている男の姿が見えた。あの様子から、住人の迷惑なんか考えていない様子から、間違いなく自警団の若い衆だろう。
当たりを付けて、圧力を掛けてきている。見る限り一人で来ているみたい。他聞此奴を犯人が痛めつけたら、其れを理由に正義の粛正をするのだろう。そして、抵抗した人間の財産を没収するのだ。
もっとも、狩猟ギルドの会員程度の財産なんかは、たかが知れているのだけれど。只、犯人を捕まえて痛めつけることで、正義の見方に慣れるのだから、自警団の若い衆的には美味しい話なのだろう。
此奴を無力化することは簡単だけれど。後が面倒なことになりそうだ。
あたしは、大変はしたないことながら、前世の言葉で、糞野郎どもがと呟いた。側に居る人達には、解らない言葉だから良いよね。
読んでくれてありがとう。




