一寸した冒険 17
「あんた。何だか騒がしくなってきたよ。もしかして本当に自警団が来るのかも知れないよ。急いで逃げようよぉ」
外で待っていた女の人が、マシュー君に抱きついてそんなことを言ってきた。真逆、一寸早すぎないか。どうしてこんなに簡単に、自警団に住所が解ったのだろう。だって、密猟者達の事は、父ちゃんの小隊の連中とデニム家の一部の人と、狩猟ギルドの長くらいしか知らなかったはずで。小隊の連中には、口止めしているし、住所まで知っているとなると、ギルドの長かりントンさん位しか知らないはず。
だいたい、あたしは自警団に知られたら、面倒なことになるから。先にギルドに報告したのだから。ギルドの何処かにでっかい大穴が空いてるのかな。
小隊の連中が知っていることは、あたしが森の中で悪いやつに襲われて、其奴らを撃退したと言うことしか、知らないはず。其れを聞いたとある隊員なんかは、襲った奴のことを今頃死んでいるんじゃ無いかって、心配していた。俺達、弓持ち御嬢に模擬戦で、全滅させられてるんだぜ。素人が適うわけ無いじゃ無いか、だってさ。後で絞めて遣ろうと、あたしは誓っているのだ。
だいたいあたしだって、リントンさんから聞くまでは、ここの住所なんか知らなかったし。自警団の若い衆に、誰かが知らせなければ、そんなに簡単に見付けることなんか出来ないはず。
取り敢えずここに居るのは、危険だから何処かに移動した方が良いだろうか。なんと言っても、本当に自警団が来たのかも怪しい物だ。だって、ギルドの誰かが漏らさなければ、正確な住所なんか調べようが無いのだから。
いくら何でも、ギルドがそこまでゆるゆるだとは思いたくないし。そして、デニム家の秘密警察が漏らしたとも考えられない。だとすると、自警団に出来ることは、人海戦術によるローラー作戦くらいしかないと思うのね。
只、うっかり皆を家から出して、発見されるのもつまらないと思う。もしかすると、派手に騒いで、鼠が逃げ出すのを、待っているのかも知れないからだ。
「兎に角一寸待って。あたしが様子を見てくるから」
あたしはこの家族が、あたしのことを信じてくれるか判んないなと思いながらも、少し大きな声で言った。ばあちゃんの言ったことを、否定しなければ良かったかも知れない。よく判んないけど、あたしのことを姫様だと言ってくれていたのだから、姫様に成り済ましておけば、言うことを利かせることが出来たかも知れなかった。今更遅いけれど。
読んでくれてありがとう。




