一寸した冒険 15
荷物をまとめていた、おばあちゃんがあたしの顔を、まじまじと見ながら、小さく悲鳴を上げた。嫌あたしは、そんなに怖い人ではないと思うのだけど。どっちかって言うと、いずれ悪役令嬢の設定通り。綺麗系のお姉さんになる予定なんだからね。今はかわいい系だと自分でも思っている。何しろ、マリアと同じ顔出し。
「サリー、お止め。姫様に失礼だろう」
と、おばあちゃんが怒鳴った。ほぼ裏声になっているから、大分焦って居るみたいだ。攻撃してくる子供を止めてくれるなら、あたしとしては有難い。
「私はあんたらを助けに来たんだ。急がないと、自警団の若い衆がやって来ちまうよ」
「捕まえに来たんじゃ無いのか」
後ろから、マシュー君が声を掛けてくる。どうやら、鳩尾のダメージから回復したみたいだ。あたしは一寸ヤバいかなと思う。此れって結構ピンチかもしんない。
「さっきから、助けに来たって言ってるじゃ無いか。どこから聞きつけたか知らないけれど、自警団の若い衆が騒いで居るみたいだから、せめて家族だけでも匿ってやろうと思ったんだよ。だいたいギルドの人だって、家族を保護しようとしてきてくれていたのに、遣っちまった
のは失敗だったかも知れないけどね」
「勝手に殺さないでいただけませんか。ナーラダのリコさん」
殴り倒されていた文菅さんが、いつの間にかマシューの腕を掴んで、此方を覗いている。大分気の毒な顔になっていたけれど、まず大丈夫そうだ。
「あんた姫様じゃ無いのかい」
ばあちゃんがあたしの処まで歩いてきて、声を掛けてきた。子供を押さえていてくれる。実に助かる。
「わたしの名前は、ナーラダのリコって言うんだ。一応、御領主様の御屋敷でメイドをしている庶民だよ」
うん。嘘は言っていない。マリア・ド・デニム伯爵令嬢と同じ顔しているけれどね。さっきから、姫様ってどういう事なんでしょう。訳が解らないわ。
「出も、その衣装は姫様の物だよ。私は若い頃、姫様に助けて頂いた事が有るんだよ。だから間違いないよ」
なんかばあちゃんが、確信を持って言い切ってくれて。もしかして、このばあちゃん、ぼけちゃったのでは無いだろうか。そう言えば、あたしを姫様って呼んでいたのは、皆年寄りばっかりだった気がする。
その姫様って何者なの。だいたい、御嬢様なら解るんだけれど。あたしはなんちゃってマリアだから、そう呼ばれるなら何となく解る。だいたい、こんな処に王女様なんかいるわけ無いのだから。姫様って可笑しいよね。
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