一寸した冒険 13
あたしの一射で、彼女は止まってくれた。ようやくあたしが弓を持っていることに気付いた見たい。此れで痛い思いをさせないで済む。
「一応あたしはあんたらを助けに来たんだけどね。殴られて遣る積りはないからね」
あたしは声を掛けながら、次の矢を番える。そして、動こうとしているマシュー君に向けた。体格差が有り過ぎるから、この距離だと捕まれたら、何も出来なくなる。そうなると、あたしも手加減するわけにも行かなくなっちまう。獲物を使えば、殺し合いじみたことになる。其れは嫌だ。
助けに来たのに、殺し合いなんて洒落に成らない。この年で人殺しになんかに、成りたくは無いのだ。
「言いかい良くお聞き。ギルドには報告したよ。それ以外には、知らせていないはずなのに、あんたらのことが、知られたみたいなんだ。この家のことも時間の問題だから、家族全員ずらかる算段を為た方が良い」
だんだん地金が丸出しになってくる。どうせあたしは田舎娘の、前世は不良だ。こんな状況だと、落着いて話すことも出来ない。話していて、自分でも何を言っているのか判らなくなってきた。
辺りを眺めると、其処いらからそこの住人が此方を覗いているのが見える。出も、危ないから出て来ない。まあ、あたしも関係なければそうやって見物しているだろうから、何にも言えないのだけれどね。
「マシュー君、君は仲間の家族を逃がそうとしていたんだろう。兎に角ここでは話も出来ないわ。他に連れ出す家族がいるんなら、話をしに行こうじゃ無いの」
「あんた本気なのか」
兎に角マシュー君は、信じられない者を見るような顔を為て、あたしのことを見ている。未だに腹を押さえているのに、あたしの顔をまじまじと見詰めてくる。
「俺達あんたを撃ったのに、助けてくれるのかい」
「あんた達を助けるんじゃ無いよ、あたしはね、あんたらの家族を助けに来たんだ。真面な物なら、任したと思うけれどね。今の自警団じゃあ、家族まで滅茶苦茶に成りかねないからね」
実際、猟師ギルドだけなら、そっちに任せてお仕舞いで良かった。他聞遣ったやつが、この辺りにいられなくして、其れで済ましただろうし。関係の無い家族まで、巻き添えにしたりはしないだろう。
その為に、家族が生活できなくなってしまうことは合っても。私刑に遭うことは無いからだ。最悪、誰もこのことを知らないところまで逃げれば、生きて行けるだろう。
この領地というか、この国の法律はあってないような処が合ったから、平民の中に、不満が堪っている。そう言うことは解っていても、今のあたしには如何することも出来ないのよね。だから、せめてなんの罪も無い人は助けたいと思う。
自警団の若い衆も可哀想なところが在る。連中の心の中にある、抑圧する物に対する怒りを、正義の名の下に其れを行うことで、発散しようとしている。そういった、怒りや憎しみは、いずれ自分に返ってくることに気付かないんだ。そうやって正義を振りかざしているうちに、いつの間にか正義に断罪されるような立場になって、初めて気が付くことになる。
読んでくれてありがとう。




