一寸した冒険 12
一番奥の部屋の扉が開いて、体格のいい男の人が荷物を持って出てきた。そいつはマシューとか呼ばれていた奴だ。確か此奴は何処も怪我していなかったはずで、此奴だけが動けたのかも知れない。
あたしは少し躊躇してしまった。背中にしょっていた、短弓を構えるのに、少し手間取ってしまう。
ここは足下が平らで、走るのには都合が良かった。だから、この大男は荷物を放り投げて、走ってくるのが思いの外速い。弓を構える時間が無かった。
視界の殆どをマシューが占めた頃、ようやく弓を持つことが出来た。此れじゃ撃つことなんか出来ない。
マシュー君が、あたしの顔面めがけて全力のパンチ。だだ、残念なことにこの人は、誰かを殴ったことはないんだろうな。いわゆるテレフォンパンチってやつだ。
あたしは、父ちゃんに仕込まれているし。前世でも結構人を殴っていたから、良く見える拳だった。それに、目も特別良いしね。
あたしは右足を横に開くと、マシュー君の拳を避けながら、左足を蹴り上げる。爪先が彼の鳩尾に綺麗に入る。普段なら、股間を狙うのだけれど、この勢いで入ったら潰れちゃうしね。男と喧嘩になったときの、常套手段だ。一発で無力化できる。良い子は真似しちゃ行けないよ。
後は考えるまでもない。弓の矢を番えて、いつでも打てる姿勢をとるだけだ。
マシュー君は、あたしの一発が効き過ぎたのか、口から血を吐いて悶絶していた。鍛えていない人が、カウンター気味に鳩尾に爪先がめり込んだのだから、堪った物では無いよね。
「御免。出もあんたが悪いんだかんね」
扉の前で、見張りをしていた女の人が、聞くに堪えない言葉を投げかけながら、あたしめがけて走ってくる。彼女はあまり走り方が解ってないらしく、随分足が遅い。
あたしは弓を構えているのだけれど。本当なら手を上げて、降参してくれる物だと思う。何しろ彼女は、安い布地のワンピースだけしか着ていないのだから。この距離で、矢が当たればだだでは住まない。あたしは人殺しには成りたくないのだけれど。折角助けに来たのに、其れを無にはしたくない。
落着いて貰わないと行けないよね。仕方ない、時間も無いし、こんな事でゴタゴタしたくない。
あたしは矢を放った。彼女の足下を狙ったのだけれど。此れで止まってくれなければ、次は痛い思いをさせることになる。
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