一寸した冒険 8
「姫様。やっぱり自警団どもは、間違ったことを為ているんですね。だから、姫様が出てきた」
彫り物のお爺ちゃんが、続けて尋ねてきた。あたし姫様じゃ無いんだけど。なんちゃってメイドでは在るけれど。姫様なんて呼ばれるような立派な人では無い。
そう言えば、さっきから気になっていたのだけれど。サーコートを着たときから、姫様って呼ばれまくっている。未だ御嬢様って呼ばれるなら、何となく解る気がするのだけれど。あたしはマリアの双子の片割れだから、知らない人が見たら、マリア・ド・デニム伯爵令嬢だと思われるだろうし。マリアは馬に乗れないから、別人なのは丸わかりだと思うけれど。
出もここで否定もしにくいな。じゃなんでデニム家の紋章を刺繍した、サーコートを着ているのか説明しにくいし。今はそんなことを為ている場合では無い。自警団より早く、彼奴らの家族を匿うことが先決だと思う。
「このままだと自警団に襲われて、大変なことに成ってしまう人達がいるの。だから、急いでそこに行きたいのだけれど。ここからは、走った方が早いと思うのだけれど。どなたか私の馬を預かってくれるかしら」
「それなら俺に任せな。俺は元馬番だぜ」
彫り物のお爺ちゃんの隣に立っていた、小太りのやっぱりお爺ちゃんが、あたしの手元からオウルの、手綱に手を伸ばしてきた。長途警戒して、あたしは手綱を渡さないように避けと、どっと笑い声が上がった。
「御前、危ないってよ」
後ろの方から、誰が言ったのか判らなかったけれど、からかうような声が上がる。どっと笑い声が上がる。
「家の宿六は姫様の物に手を出すような、罰当たりではないから安心しておくれ」
後ろの方で、其れを見ていたおばちゃんが、酒焼け為た声で言ってきた。それでも暖かい感じがする。良い感じの夫婦なのかも知れない。
あたしはこの人を信じることに為た。どのみち、マーシャおばさんが出てくるのを待っていたら、間に合わないかも知れないのだから。自分の直感を信じるしか無いのだろう。
オウルの手綱を、小太りのお爺ちゃんに渡すと。マリアの振りを為た方が良いかなと思い。コーツイをその場でして見せる。
「宜しくお願いしますわ。後でお礼は致します」
そう言い終わると、あたしは全速力で走り出した。
「此奴は責任持って連れて行くよ」
あたしの背中にその声が掛けられる。不思議なことに、必ず連れてきてくれると思っているあたしがいた。
読んでくれてありがとう。




