夜の散歩 2
読んでくれておりがとう。
地上に降り立つと、下草の香りがあたしを迎えてくれる。虫たちの愛の歌が辺り一面から聞こえる。
「良い感じね」
あたしは思わず呟く。屋敷の中庭はよく手入れされていて、昼間もセンスの良い庭だなと思ったけれど、庭師さんを尊敬してしまう。給料以上の仕事をすることは、本当にすごいと思う。
前世のあたしと違って、日々同じ事をすることの大変さを知っている。その素晴らしさは、この不便な生活をすることで、思い知った。
何しろ、ここではすべてのものが手作業で作られる。職人の個人的な力量によって、極端に違うこともある。そして、全く同じに作ることのなんと難しいことなのか、自分で作って初めて知ることが出来た。使って使いやすいものは、全く変わらない形と性能を保証する物を、作れるって大変なことなのだ。
「さて、父ちゃんは今どこにいるかな」
あたしは呟きなら、あたりに視線を向ける。案の定兵舎の方から、父ちゃんが向かってくるの気がついた。やっぱりきたなって言いそうな顔をしている。お仕着せの皮鎧に、いつもの強弓を担いだ姿は、山賊にしか見えない。
腰には、短めの剣を下げている。束には、黒い皮が巻き付きてある。
そちらの方に小走りに近づく。
「やはりきたな。おまえも手伝え。誘拐に荷担している、鼠を始末するそうだ」
「えー。あたしは明日から、村に向かわなくちゃ行けないんだけど」
「小遣いを遣ろう。金貨で四枚でどうだ。戦えとはいっていない、おまえの目を貸せ。それだけで、金貨四枚は悪くないだろう」
「本当は、ご婦人に何枚貰うことに成っているの?」
「言わないのは解ってるだろう」
この暗さでは、父ちゃんの眼では、一番自信を持ってる強弓を使えない。百七十メートルを隔てた場所から、標的を打ち抜く実力を見せることが出来ない。昼間なら別だけれども、この暗さだといかな父ちゃんでも無理だろう。
「なに。本当に仕事をするのは、兵士の方だから、俺はご婦人の後方から援護するだけだ」
「デニム伯爵夫人はそんな事もするの?」
「する。相当、怒っているみたいだから。昔みたいに護衛を命じられた。この暗さでは、弓が使えない。剣ではこちらも無傷で済ませられるか解らんからな」
父ちゃんは皮肉な笑いを浮かべる。
「あたしが出てこなかったら、どうするつもりだったのさ」
「そん時は、剣を使うだけだろう。こう見えても、それなりに剣も使える」
そういうと、父ちゃんが歩く速度を上げた。これからはお仕事モードになる合図である。