一寸した冒険 2
「姫様。矢張りここにいらっしゃいましたか。リコの胴着を借りたのですか。其れでは少し相応しくないかと思いますよ」
リントンさんは、あたしを一瞥すると。実に嬉しそうに笑った。彼の後ろには、何時も側にいる側仕えが、年季の入った服を折りたたんで持っている。
「リントン」
「私は姫様のことなら、お見通しで御座います。本当は、犯罪者の家族のことなど捨て置けば良いのに、とも思いますが、昔からそう言う方でしたから、怪我の無いようにだけ気を付けていってらっしゃいませ」
あたしは、リントンさんの台詞を唖然としながら聞いていた。何を言っているのか理解できない。もしかして、呆けちゃった。只、止められないことだけは解った。
リントンさんの側仕えの人が、あたしに持ってきた服を着せてくれた。その年季の入った服は、いわゆるサーコート的な物のようだった。だから、胴着の上から着させて貰う。
着させて貰って言うのもなんだけれど、色んな処に補修した跡があった。少しあたしより大きい人が着ていた物らしく、胴着の上からの割にはぶかぶかしている。生地は上質な物みたいで、触り心地は今までで一番良い物かも知れない。
左の胸には、デニム家の紋章が刺繍されているから、デニム家のどなたかが使っていた物なのだろう。今のあたしは、マリアなのだから断るわけにも行かない。有難く使わせて貰うことにする。
改めて矢筒を下げていたバンドを、サーコートの上から腰に巻いて。短弓を背中にしょった。そして、懐から鎖を取り出して、お腹の上から巻き付ける。
「では行きましょうか」
リントンさんが、あたしに声を掛ける。いつの間にか、オウルの背中に立派な鞍がのせられている。この鞍にもデニム家の紋章が描かれている。
あたしがサーコートを着ている間に、リントンさんが、鞍を着けてくれたのだろう。オウルが嫌がらなかったことにビックリである。そんなに頻繁に、彼は馬屋に来ているのだろうか。
オウルは信頼していない人間に、触られることを嫌がる子だったはずで。全く知らないとなれば、蹴ってしまっても不思議では無いのである。
「では行ってらっしゃいませ、姫様。もし宜しければ、マーシャの家の前を通ることをおすすめします」
あたしはどんな顔を為たら良いのか解らず。急いでオウルに飛び乗った。其れで気付いたのだけれど、この鞍も年代物のようだった。それでいて、鐙は良い感じに調節されている。
兎に角走り出さなければ、何も出来ないのだから。運が悪いとかなりな冒険になるかも知れないけれど。今は自警団より早く、彼奴らの家族を見付けることだ。何でこんな事を為ているんだろう。本当にあたしは馬鹿だ。
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