事態は深刻 9
流石に長い時間、リントンさんと喋っていると、張れてしまいそうになって、無理遣り会話を終わらせた。変に思われただろうか。
リントンさんの足音が遠のいて行くのを聞きながら、今日何度目かの溜息を漏らす。やっぱり慣れない事はする物では無い。心労が半端ない。本当に疲れた。
でも、あたしの手には、例の一件の詳細が書かれた紙がある。此れで、あたしを殺そうとした連中の家がわかる。家族を自警団から守ることが出来るかも知れない。本当は、この領都の治安を守る警察があれば、心配しなくても良いのだけれど。無い物は仕方がない。
あたしの部屋の扉が開いた。マリアが心配そうにあたしに目線で尋ねてくる。あたしは手に持っている紙を振って見せた。
マリアの顔に笑顔が浮かぶ。彼女は小走りで近付いてくると、あたしに抱きついてきた。
「六十点」
「へ」
「あたしの真似としては六十点だって言ってるの。始めは良かったけれど、だんだんあやふやになってきたじゃ無いの。本当にひやひやしたわよ。でも、良かったじゃ無いの。リントンを騙せたようで良かったわ」
あたしは改めてリントンさんの文字に目を通した。神経質そうだけど上手い文字が並んでいる。
「此れから如何するの」
マリアが此れからのことを聞いて来た。実はあたしも此れからのことは、考えた居なかったのである。条件反射的に、兎に角家族の居場所を把握したかったのである。
兎に角ギルド会員の住所は、自警団には把握できないだろう。だから、未だ時間はあるだろうけれど。決して安心の出来ることでは無い。急いで、家族を安全なところに避難させなければ、取り返しの付かないことになる。
「兎に角このことを、家族に知らせて逃げて貰わないと行けないと思うんだ。流石のマリアも、そんな危ないところに行くから馬車を出せとは言わないよね」
「私なら、リントンが狩猟ギルドの長に命じたと聞けば。それ以上のことはしないと思うわ」
「だよね」
マリアの言うことも判る。確かに彼女なら、これ以上のことはしないだろう。でも、あたしは、そうはいかない。こっちはそんなに酷い思いを為ていないのだから。本人はともかく、何もしていない者達まで、酷い目に遭わされるのを、見ていられない。
先ずはあの連中の家族を、自警団から逃がさなければ行けない。その為には、家まで行って逃げるように言うしか無いけれど。何処に逃がしたら良いのだろうか。最終的には、あたしの故郷にかくまって貰う。其れしか無いだろうけれど、どうやって連れて行ったら良いのだろう。
上手い考えが浮かんでこない。結局あたしは普通の不良少女でしか無かったから、何処かのチートキャラでは無いので、名案が浮かんでこなかった。何処かにヒーローでも落ちていないかしら。
読んでくれてありがとう。




